・ハンバーガー屋さんのメニューを考えよう! - タルタルサーモン! -
「うーん、そうだなぁ……」
少し考えた。
何を加えたらみんなが喜ぶ人気のハンバーガーになるんだろうって。
そうしたらあたしの頭には、昔作ったパンたちのレシピが浮かんできた。
「そうだっ、昔ねっ、サーモンサンドっていうのを作ったんだよ!」
「まあっ?!」
「ロランさんと一緒に村の外に釣りに行ってね、そこでおっきなサーモンを釣り上げたの! あのサーモンサンド、凄く美味しかったなあ!」
だけどその後の夜は大変だった。
突然の嵐が村を襲って、村の子供たちが行方不明になった。
あたしもゲルタさんの酒場宿から帰れなくなってしまって、ロランさんとホリンたちが嵐の中がんばっているのに、ずっと震えながら酒場で縮こまっていた。
それからその後、子供たちが見つかって、あたしはロランさんの部屋を借りることになって……。
そこで自分がロランさんの娘なのかもしれないって、そう気付くことになった。
ロランさんはお母さんに会いたくてアッシュヒルに帰ってきた。だけどお母さんはもうこの世にいなかった。
だからゲルタさんはロランさんのことを、哀れな男って言っていたんだろう……。
「それはモクレン名物のツナサンドのようなものか……?」
「あ……」
あ、余計なこと考えてた!
今は2人の未来のために、メニューのことを考えなきゃいけないんだった!
「うんっ、そう! ツナって魚の代わりにね、サーモンを使ったの!」
「サーモンか……! あの脂の乗ったサーモンをバンズではさむのか……っ!」
「それっ、間違いありませんのっ、絶対にそれっ、美味しいはずですのよっ!」
「へへへー、じゃあ決まりだね! あ、後で釣りに行くのもいいなぁ……」
あの隠された小さな湖、綺麗なところだからイベリスちゃんにも見せてあげたい。
あたしはあの場所を見つけたお母さんが誇らしくなった。
「喜んでお供しますわ!」
「釣りならお任せを。モクレンの平民は釣りなどお手の物だ」
釣り竿を振りかぶるようにしてみせて、インスさんが楽しそうに微笑んだ。
「うん、その時は2人ともお願い!」
今すぐこの3人で釣りに行きたい!
そう思ったんだけどそこは我慢して、あたしはイベリスちゃんのお店のメニューを考えていった。
そうだなぁ、うちの店で他に成功したレシピといったら……。
「ピザバーガー、とか?」
「トマトとチーズを使っている時点で、既にピザのようなものでは?」
「じゃあ、メロンパンバーガー!」
「なんですの、メロンパンって……?」
「まさかとは思うが、パンの中に、メロンが入っているのか……?」
「ううん、内側はふわふわのパン生地で、外側は甘いクッキー生地のパン! それがメロンパンだよ!」
イベリスちゃんとインスさんの顔つきがその一言でとても真剣なものに変わった。
え、メロンパンバーガー、採用……?
「それは食べていない」
「そう、それは食べてませんのっ! しかもクッキー生地ですって!? それを食べずにはスイセンに帰れませんのよっ!?」
「えへへへ、じゃあ近いうちに一緒に作ろうねっ!」
メロンパンバーガーはお流れになったみたい。
そうなるとアップルパイバーガーが脳内候補に浮上したけど……こっちも単品で食べたいな……。
でもパイって、自分で作るとなると凄く大変。
誰かが代わりに作ってくれたら、それって最高だと思う。
そう……そうだよ!
他のみんなだって、代わりにアップルパイを作ってくれる人を探しているはずだよね!?
「いっそのこと、ハンバーガー以外も出してみたら?」
あたしは楽してアップルパイを食べたい一心で、それとなく提案してみた。
「ほら、ハンバーガーだけだと口が飽きちゃうし、だからほら、例えばアップルパイとか……あったらいいなぁ……いいと思うなぁ……?」
「まあっ! 確かにそうすれば収益性がアップしますわねっ!」
「え、しゅう、えき……?」
あたしはただアップルパイを楽して食べたいだけ。
しゅうえきせい、とか、難しいこと言われてもわかんなかった……。
「自分たちは、ハンバーガー専門という言葉に自縄自縛になっていたのかもしれないな。甘辛いハンバーガーに合う添え物があれば、自分もついつい頼んでしまうだろう」
「ハンバーガーを食べた後のデザートに甘いアップルパイとは、良い着目点ですのっ!」
さすがムギちゃん師匠だと、2人はあたしを尊敬の目で見ていた。
そういうつもりはなかったのに、二人はあたしのことを商売の天才だと褒めてくれた……。
違うのに……。
あたしはただ、イベリスちゃんが作ったサクサクのアップルパイを食べたいだけなのに……。