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☆バカンスの終わり、イベリスちゃん手作りのハンバーガー

・カラシナの娘


 イベリスちゃんが村にやってきてより、ざっくりで一ヶ月が経った。

 その間にあたしたちのアッシュヒルは、大きく成長することになった!


 移民さんたちの集合住宅が完成して、村の直売所の隣に商店が二軒も建った!

 あたしのハンバーガーで筋力6倍、疲れ知らずになった労働者さんたちが、石畳で舗装された立派な山道を整備してくれた!


 中には2頭の馬車がすれ違えるほどに広い道もあって、なんかもう見違えるほどに立派になっていた!


 だけど労働者さんたちは帰らなかった。

 残りの日当とハンバーガー欲しさに、なんとフィーちゃんたちが暮らす東側の細い道まで整備し始めた!


 南東側に山を抜けた先に小さな町があるので、そこに繋がる道を造ってから帰るって言い出した!

 なんかよくわからないけど、ロランさんが言うにはそれって凄く良いことらしい。


 け、けーざい的に?

 アッシュヒルが豊かになるって、そう言っていた。


 商人さんがいっぱい通りがかるようになるんだって。

 だからゲルタさんの宿屋さんも、増築するか二号館を作ろうって話になっている。


 そんなわけであたしのパン屋さんは連日大盛況!

 労働者さん向けに作ったハンバーガーが毎日飛ぶように売れた!


 最初は失敗もあったイベリスちゃんが、日に日に成長してゆく姿も友達として嬉しかった!


 だけど……。


「え、帰郷、命令……?」

「ああ、両陛下はイベリス姫に帰郷を命じられた。近日中に自分たちはスイセンに戻らねばならん」


 イベリスちゃんとインスさんが都に帰らなきゃいけなくなっちゃった……。


「それって、どうにかごまかせたりしないのっ!?」

「帰らないわけにはいきませんわ……。ただ、ただで帰る気はありませんのよっ!」


「おおっ、え、どうするの!?」

「連日の激務で揉まれた結果だろうか、姫様は目に見えてたくましくなられた……」


 インセンスさんがそう言うと、イベリスちゃんは村長さんのまねをした。

 出会いは最悪だったけど、お互いに共通する物があったんだって。


 たぶん……あたしの呼び方……?


「ムギちゃん師匠っ!!」

「は、はいっっ!?」


「うちの……うちの……っ! うちの作ったハンバーガーを食べてくれませんかっっ!?」

「あ、うんっ、いいよ!」

「姫様はこの一ヶ月の修行の成果を、パンの神であるコムギ様に見せたいそうです」


 え、あたし、神様だったんだ……。

 でもそこはおいといて、イベリスちゃん手作りのハンバーガーが食べられるなんてラッキー!


 一ヶ月もこの家で一緒だったから、お別れは凄く寂しいけれど……。


「そういうわけでムギちゃん師匠。お昼まで外で休んでいてくれますの?」

「え、働きたい……」

「昼までの間だ。仕事は何とぞ自分たちにお任せを」


「うー……手伝っちゃだめ……?」

「ムギちゃん師匠が手伝ったら、修行の成果を見せられませんわ」


 あたしはお店の主人なのにお店を追い出された!

 しょうがないからホリンのいる風車に行って、ホリンとロランさんとの訓練を見物した。


 あたしが退屈しているのに気付くと、2人は左右に腰掛けて一緒にお喋りをしてくれた。


「あいつら帰っちゃうのかー……。そりゃ寂しいなぁ……」

「うん……だよねっ、だよねーっ!?」

「次は貴方たちから会いに行けばいいのでは? ホリンを使えば造作もないことです」


 あ、そっか! ホリンがいれば距離なんて問題じゃない!

 いつでもスイセンに遊びに行けるんだ!


「俺は馬車じゃねーよ……」

「頼りにしてるね、ホリン!」


「おう、1人で行かれると心配だからついてってやるよ」

「スイセンの隠しアイテム、回収してないしねっ!」


 あたしたちは楽しくお喋りしながら、イベリスちゃんが捏ねたバンズと、それではさんだハンバーガーが完成するのを待った。



 ・



 ハンバーグが焼ける匂いがしてくると、あたしは2人に見送られて丘を下った。


 お店の軒先までやってくるとちょうどイベリスちゃんが出てきて、あたしの手を引いて居間へと連れて行ってくれた。

 いつものあたしの席に、イベリスちゃん特製ハンバーガーが用意されていた!


「どうぞ、ムギちゃん師匠! これがうち特製、デカ盛りバーガーですのっ!!」

「で、でっかぁぁーっっ!?」


挿絵(By みてみん)


 いつものハンバーガーの1.5倍くらいの横幅があった……。

 高さは増えていないみたいだけど、それでも凄いボリュームだった……。


「でもこれ、どうやって食べるの……?」


 これ、やわらかいバンズと具もあって、手で食べたらこぼれちゃいそう……。


「フォークとナイフを使いますの」

「えーっっ、お上品っ!?」

「とにかく食べてみてくれ。姫様と自分の努力の成果だ」


 デカ盛りバーガーをナイフで一口サイズに切った。

 するとハンバーグから肉汁がぶわぁぁーって出てきて、それに茶色いソースがかかっていた。


「それは野菜と香辛料を煮詰めて作ったソースだ。港町モクレンのレストランでよく使われる」

「インセンス! それはうちが言うセリフですのーっ!」


「すまない、モクレン育ちとしてはどうしてもな……」

「うちもモクレン育ちですのーっ!」


 口に運んでみたら、ふわふわのバンズの中で肉汁がぶわーっっで、茶色いソースが凄く絡み合って満足の味だった!

 タルタルソースもいいけど、この茶色いやつ、甘辛くて凄くハンバーグに合うっ!


 あたしはおっきなハンバーガーをどんどん食べていった!

 いったん、だけど……さ、さすがに、多い……。


「ムギちゃん師匠のお口に合いませんの……? うち、修行不足ですの……?」

「ううん……多い……。これ、多いよ……」


「うちならこのくらいペロリですの」

「はっ、姫様はコムギ様が作られたあの大きなバゲットを、一食でペロリとされるお方だ」

「う、うわー……」


 食べなきゃ失望させちゃうかなと思って、一口また食べてみたけどもう入らない……。


「大きさ、もうちょっとだけ小さくてもいいんじゃないかな……っ」

「ですが、それではちょい盛りですの?」

「普通の人からすると十分だからっ!」


 横幅が半分増えるだけで、2倍以上のボリュームになっていた……。


「インセンス、メモしておきなさい」

「は!」

「メモするまでもないことだと思うんだけどな、あたし……。あ、でもねっ、凄く美味しかった! イベリスちゃん、すっごく上達したねっ!」


「本当ですかっ!? よかったですわっ、ありがとうございますっ、ムギちゃん師匠っ!」


 『これで一人前だね!』って言おうとしたけど、寂しくなってきてそのセリフは止めた……。


 イベリスちゃん、手放したくない……。

 ずっとここに居てくれないかな……。


「ムギちゃん師匠、実はうち、ずっと考えていた計画がありますの」

「え、計画? なんか大げさな感じだけど、なんだろう?」


「うち、ずっとここに居たいですわ……。だけどそれは、うちの立場からするととても難しいことですの……」

「そっかー……あはは、残念……。すっごく残念……」


「だからうちっ、スイセンでハンバーガー屋さんをやろうと思いますのっ!!」

「実際、大げさな計画だったというわけだ」


 ハンバーガー屋さん……?

 パン屋さんじゃなくて、ハンバーガー、専門店……?


 お、おおおおーーっっ!!


「それっ、いいっ!! それ、あたし行きたいっ、いいと思うよ、あたしっ!!」

「はい! ムギちゃん師匠なら、そう言って下さると思っていましたわ!」

「やれやれ……これで後には引けなくなったか……」


「うち、考えましたのよっ! ハンバーガー屋さんとして、独立してしまえばいいんですのっ!」

「へ、どくりつ……?」


 あたしにはなじみのない言葉だった。

 独立したらどうなるのか、よくわからなかった……。


「そうすれば、王女として生きなくても済みますの」

「お、おおっ……?」

「姫様……? 思い付きの酔狂ではなく、そんな魂胆があったのか……?」


「もちろん、どこにも嫁がずにも済みますわ。好きなことを仕事にして、自由に人生の伴侶を選べますの。協力して下さいませんかっ、ムギちゃん師匠っ!!」


 チラッと、あたしはインセンスさんを盗み見た。

 インセンスさんは口を半開きにしてイベリスちゃんの話に驚いていた。


「いいよっ、あたしも行ってみたいし! イベリスちゃんのハンバーガー屋さん!」

「ありがとうございます、ムギちゃん師匠! ではっ、メニュー作りの相談に乗って下さいませんかっ!?」


「あたしがメニュー決めていいのっ!? もちろんやるやる!!」


 イベリスちゃんはたくましい。

 さすがは攻略本さんの仲間だった。


 正史のイベリスちゃんも、お姫様としての運命を乗り越えるために旅に加わった。

 だったらこの時代の攻略本さんであるあたしも、イベリスちゃんのために働きたい!


 そう強く思うと、そこにちょうど攻略本さんの声が響いた。


『ありがとう、コムギ。君の手でインセンスとイベリス姫の未来を切り開いてくれ。私は2人の結末を見届ける前に、滅亡のアッシュヒルで倒れてしまった……。私はこの2人のハッピーエンドが見たい……』


 じゃあ決まりだ!

 イベリスちゃんとインセンスさんのために、繁盛間違いなしの美味しいレシピを考えよう!


更新遅れてすみません!!!

やることが多くてなかなか手が回っていませんが、コツコツ書いています。

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