・はんばあがの試食をしよう! - ホリンにも食べてもらおう! -
やっと全員分を作り終えると、インスさんが台車で山道へと運んでくれた。
イベリスちゃんも笑顔を見たいと理由を付けて、それについていってしまった。
ベルさんもゲルタさんの宿に泊まる予定だと言って、少し名残惜しそうにしてから、宿屋のある村中央の丘を上っていった。
あたしは湖畔の木陰に座り込んで、少しだけ休憩した。
するとそこに――
「コムギ、少し問題が発生した」
「あれ、どうかしたの?」
忘れ物かな? ベルさんが戻ってきた。
「宿泊を断られた……」
「え、ええーーっっ!?」
「人が泊まる隙間はもうないと言われ、宿の女主人に、君のところに行けと言われた……」
酒場宿はだいぶ前から満室で、夜は酒場で雑魚寝をする人がいるくらいだそうだった。
そんなところに王族であるベルさんを泊めるわけには、さすがのおおらかなゲルタさんもいかなかったんだろうな……。
「わかった、うちに泊まっていって!」
「いいのか……?」
「2階の空き部屋は、まだ埃が酷いから泊められないけど、居間の暖炉の前に寝れる場所を作るね!」
「そうかっ、助かる! それが終わったら、俺は兄を探しに行くとしよう」
「えっ……」
「この村にいるのだろう、兄は?」
「も、もう空も暗いに止めようよ……? それに、王様なんてこんな村に居ないと思うよ……?」
「ここに1人居る」
それはそうなんだけど……。
「それはホリンが勝手に連れて――あっ」
ベルさんは『やはり何かを隠しているようだな?』と、あたしを冷笑した。
「フ……。そうだ、ホリンにもハンバーガーを届けてやってはどうだ?」
「あっ、そうだった! ホリンのことすっかり忘れてた!」
あたしはベルさんのために寝床の準備をして、それが終わると一緒に家を出た。
片方はお兄さんを捜しに、もう片方はハンバーガーを届けに小高い丘を上り、分岐点までくると立ち止まった。
「兄はどこにいると思う?」
「居ませんっ!」
「フフ、やはり居るようだな。君は嘘が下手だ」
「い、居ても渡しませんよーだっ!!」
ベルさんと別れて、あたしは村長一家の大きな家を目指して駆けた。
ハンバーガーを持って訪ねると、家にはホリンだけだった。
久しぶりのホリンの家の大きな居間に通された。
「ベルさんのやつが気合い入れてただけあるなっ、こりゃ美味いっ、過去最高傑作なんじゃねぇかっ!?」
「あたしもがんばったんですけどーっ!?」
「お前ががんばってるのはいつものことだろ。むしろお前は、少しはサボれ……」
「そんなの無理! みんなががんばってるから、あたしもがんばる! いつも以上に!」
「はぁぁぁ……お前よぉ……」
ホリンは呆れ果てた目であたしを見ながらハンバーガーを食べていった。
「あっちのハンバーガーもベルさんと一緒に食べたけど、お前、やっぱりパンのことに限ったら天才だな」
「そうっ!?」
「これを向こうのシェフが食べたら、修行の旅に出ちまうかもな。パンで村を救っただけのことはある」
素直に褒められないのがホリンらしかった。
でもベルさんに挑戦状を突き付けられて、心変わりがあったのかもしれない。
あたしの願望かもしれないけど、ホリンはあたしのことを今まで以上に積極的に見てくれていた。……気がする。
「ごちそうさん。爺ちゃんたちの分までありがとな」
「うんっ! 勝手に食べちゃだめだよー?」
「ちょっと本気で迷ったけど、それやったら爺ちゃんにぶっ殺される」
「あはは、きっとそうなるよ。ところで、みんなどこ行ったの?」
「爺ちゃんは山道、親父とお袋は家々を回って、移民の人たちを泊めてやってくれないかって頼みに行ってる。まずは集合住宅を建てるって、みんな張り切ってるよ」
「ふーん……みんながんばってるんだなぁ」
じゃあ、あたしも明日からもっとがんばらなきゃ!
「それじゃあたし、ベルさんが帰ってるかもしれないから帰るね」
「おう、なら送って――って、なんだってぇっっ?!」
あ、しまった……。
2人はライバルで、ホリンは挑戦状を突きつけられたばかりだったんだった!
「だって酒場宿、あの状態でしょ。泊まるところがないんだって……」
「だからって……っ、素直に泊めることないだろっ!?」
「そうだけどっ、そもそも連れてきたのはホリンでしょっ!」
「……よし! 今日は俺もお前の家に泊まる! アイツが勝手なことしないか見張ってやる!」
「ホリン……? あの、何言ってるのか、わかんないんですけど……」
ベルさんが変なことするはずないのに、ホリンは自分の部屋に枕とかを取りに行った。
「アイツにお前は渡さねぇ……」
「う、嬉しいけど……枕抱えながら言われても、なんか……」
ホリンの心配性が再発していた。
あたしとホリンは並んで夜の田舎道を歩き、丘の下のパン屋を見下ろしながら下っていった。
なんかよくわからないけど、今夜は賑やかで楽しくなりそう!
青い夜空を見上げると、星屑がうっすらと浮かび上がり始めていた。