☆ふわふわのバンズを焼いてハンバーガーを作ろう! - 我の妻になってはもらないだろうか? -
食パンが焼き上がると、イベリスとロマちゃんが直売所に運びに行ってくれた。
あたしとベルさんは店に残って、そろそろ頃合いのバンズに白ゴマを乗せていった。
ゴマだけ一粒食べてみたら、香ばしくて粒々していて美味しい。
「ゴマを1粒1粒つまんで食べる人を見たのは初めてだ」
「え、食べ方間違ってた?」
「美味いのは認めるが、あまりそのまま食べるものではないな」
「そうなんだー? でもこれ美味しい! 口にザーッて流し込んで、もしゃもしゃ食べてみたくなるくらいっ!」
「……バンズを焼かなくていいのか?」
「あっ、忘れてた! 手伝って、ベルさんっ!」
「もちろんだ」
あたしはゴマを乗せたバンズを、ベルさんと一緒にパン焼き釜に入れて、またフレイムを燃料室に放った。
「ところでコムギ」
「うん、なーにー?」
「あの話の続きだが……」
「あ、ゴマの話?」
「我の妻になってはもらないだろうか?」
……へっっ?!
あまりに唐突な話に、あたしは素っ頓狂な声を上げてベルさんに振り返っていた。
「すまない、君に王妃の地位は約束できなくなってしまった」
「えっ、なっ、つ、妻っ、王妃っっ?!」
「我は王位を、ある人に譲ろうと思っている。だが君のような女性こそサマンサ王家に必要だ」
ベルさんは本気だった。
いつだって真面目な人だから、ベルさんがこんなたちの悪い冗談を言うはずもなかった。
ベルさんはあたしに迫り、あたしはベルさんから後ずさった。
逃げ場を失ったあたしは、知らず知らずのうちに壁へと追い込まれていた。
「コムギ、君が欲しい」
「えっ、ええええーーーっっ?!」
「君とホリンが惹かれ合っているのはよく知っているが、もはや理性ではこの問題は解決できぬ。ホリンとの友情にヒビを入れてもかまわん。我の妻になってくれ、コムギ」
背の高い銀髪の貴公子様が、壁に両手を突いてあたしの左右を塞いだ!
あっああっあたしっ、これ知ってる! 壁ドンッ、壁ドンッだ!?
「あ、あの……ベルさん……」
「ホリンには先日、君を奪うと宣戦布告をさせてもらった」
えっ!?
あ、そういうわけだったんだ……。
だからホリン、サマンサから帰ってきてから様子が変だったんだ……。
なんか胸がドキドキする……。
えっと、これは、どういう感情……?
「今この場で答えを出せとは言わん。だがこれだけは言っておく」
「な、なに……?」
「どんな手を使ってでも君を奪い取る。こんなに素晴らしい女性を誰かに渡してなるものか」
そう言いながらベルさんはあたしの手を取った。
あたしはそれにビクッて震えちゃったけど、だけど相手はベルさんだった。
女性恐怖症のベルさんも、自分から触れてきたのに小さく震えていた。
「ベルさん、なんか震えてないですか……?」
「き、気のせいだ……」
「大丈夫ですよ。あたし、ベルさんを裏切ったりしませんから。ひゃっっ!?」
そう伝えると、ベルさんがさらに距離を詰めてきた!
「ますますホリンには渡しがたい……。ヤツめ、己がどれだけ恵まれているのか、本当にわかっているのか……?」
どうしよう……。
若い王様にこんな情熱的に迫られたら、普通ならイチコロだ……。
しかも相手は黄金の国の王。
ロランさんの弟で、超イケメン! 普通なら乗る話だ……。
「せっかくだ、もう1つの事情も明かそう。これは君に対する挑戦状となるが……」
「え、あたしにも、挑戦状ですか……?」
「我は兄ロラン・サマンサを追ってやってきた。我の目的は、兄に王位を返還し、兄をサマンサに連れ帰ることだ」
え、それは困る!
ロランさんにはうちで暮らしてもらう予定なんだからっ!
あたしはつい、ベルさんに強い目線を返していた。
「やはりここにいるのだな?」
「う……っ」
「隠さずとも良い。ホリンのあの剣は、達人である兄の技だ。ホリンと親しい君のことだ、兄ともさぞ仲が良いのだろうな」
「え、ええー、な、なんことかなぁー……?」
「君が2階のあの部屋から逃がした相手は、ロランという名の男だ。強く、賢く、公平で、清廉潔白な理想の王だった」
あ、ホリンそっくり……。
ベルさんがロランさんに心酔する姿が、あたしにはホリンに重なって見えた。
でもロランさんはあたしたちアッシュヒルのものっ!
返せと言われても、今さら返せませんからーっ!
って、言うわけにはいかなかった……。
「我が兄、ロランは返してもらう。兄上はサマンサに必要なお方だ」
「どうかな? その人が帰りたがるとは、限らないんじゃないかな……?」
「ほぅ……!」
「あたしはその人が暮らしたいところで暮らすべきだと思うよ! 誰のことかわからないけど、でもっ、アッシュヒルの仲間の1人だったとしたら、あたしだってベルさんに渡さないからっ!!」
ロランさんはあたしたちのもの!
絶対に絶対、サマンサには返さない!
あたしとホリンは、ベルさんに2つの挑戦状を突きつけられていた!
挿絵・しーさん
しーさんいつもありがとう!