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・ふわふわのバンズを焼いてハンバーガーを作ろう! - バンズを作ろう! -

 シェフさんからのお手紙には、ハンバーグって料理のレシピも入っていた。


 これはハムを食パンではさむだけのサンドイッチより、だいぶ手間がかかりそうだ。

 だけど作ってみたい! 食べてみたい! 絶対美味しい!


 あたしがお願いすると、ベルさんとイベリスちゃんがとっておきの小麦粉を地下倉庫に取りに行ってくれた。


 片方はサマンサの小麦粉。

 もう片方はダンさんの畑の小麦粉。

 サマンサとアッシュヒルの夢の共演だ! きっと美味しくなるはず!


「いつもありがとう、ロマちゃん。でも休みたいときは遠慮なんてしないでね?」


 2人が戻ってくるまで、あたしはロマちゃんを抱っこして待った。

 人肌をロマちゃんに移しておくと、パンの発酵も早くなるから一石二鳥だ。


 ピンク色のぷにぷにした身体を捏ねていると、重たい足音を立てて2人が戻ってきた。


「お待たせっ、ロマッ、ムギちゃん師匠! よっこいしょっとっ!」

「……女性とは思えぬ筋力だ。これでは男の立場がないな」


「ふふっ、それが不思議なんですのよ。アッシュヒルの空気を吸っていたら、いつの間にかこうなっていましたの!」


 攻略本さんがいうには、初期のイベリスちゃんはヘナチョコだったそうだ。

 それが一緒に旅をしているうちに、どんどん力持ちになっていったんだって。


「それが本当ならば我もここの空気にあやかりたいものだ」

「ありがとうイベリスちゃん、ベルさん! じゃあそっちを7回、こっちを3回、この大きなボウルに小麦粉を移していって!」


 計量に使っている小さなボウルを2人に渡して、配合をお願いした。

 サマンサの白い小麦粉が7、アッシュヒルの薄黄色い小麦粉が3入るごとに、あたしはそこに砂糖を溶かした牛乳を加えていった。


 ちなみに色が違うのは、サマンサの小麦粉は胚芽を取ってから粉にしているからだそうだ。


「パン屋というのは水夫顔負けの力仕事なのだな……。君たちは毎日こんな大変な作業をしているのか?」

「へへへ、見直した?」


「うむ、やはり君は尊敬に値する。宮廷でふんぞり返っている貴婦人どもとは大違いだ」

「あはは……。でもあたしには、貴族様のまねなんてできないし」


 大きなボウルがいっぱいになると、あたしはそこにフレイムで溶かしておいたバターを加えた。

 そしてそれを混ぜ合わせて、大きな固まりにすると、ボウルを傾けて打ち台に乗せた。


「生地もう1塊分くらいお願い!」

「わかりましたわ。ロベール様、がんばりましょう!」

「あ、ああ……。君たちは本当にたくましいな……」


 大きな塊を捏ねて、持ち上げて、ひっくり返して、伸ばして、ゴワゴワの生地を滑らかにしていった。

 ベルさんはパンを捏ねる作業に興味があるのか、あたしの手元ばかり見ている。


「気持ちはわかりますわ。ムギちゃん師匠は力持ちで、体力お化けですの」

「えっへへーっ、お化けだけど足はありますよーだっ♪」


「ロベール様、よそ見をしていないで手を動かして下さいますか?」

「む……そうだったな。しかりまるで魔法のようだ。これが職人技というものなのか……」


 そうしていると、打ち台の上でロマちゃんがあたしの手にからみついてきた。

 ロマちゃんもベルさんにいいところを見せたいみたい。


 あたしは生地を半分にして、ロマちゃんにパン捏ねをお任せした。


「ところでコムギ、君は魔物使いか何かなのか……?」

「ううん、違うよ。ロマちゃんはねー、酒場のゲルタさんにメロメロなの」

「とても良い方ですのよ。うち、ゲルタさん好きですわ。お店に行くと、いつもオレンジジュースを出してくれますの」


「う、うむ……? この村は、謎に満ち満ちているようだな……」


 ベルさんは変装の銀縁眼鏡を外して、生地の上でポインポインと跳ねるスライムに目を奪われた。

 すると作業の手が止まってしまったので、イベリスちゃんにまたせっつかれることになった。


「ベルさんも捏ねてみる?」

「いいのか?」


「うんっ、せまくてもいいならぜひ!」


 打ち台に3人と1匹はさすがにせまかった。

 溶かしたパターをイベリスちゃんが大きなボウルに加えると、あたしは今捏ねている生地をまた半分にした。


 片方はイベリスちゃん。もう片方をベルさんにお願いした。


「おお、面白い手触りなのだな。しかし想像よりも重く、固さや粘りがある」

「ほどほどをおすすめしますわ、ロベール様。修行1日目は、手の痙攣が止まらなくなりましたもの」


 あたしは大きなボウルの方を担当して、乳と小麦粉を混ぜ合わせていった。

 狭いけど、みんなでパン生地を作るのって楽しい……!


「あれ、ベルさん……? どうかしたの?」


 夢中になっていると、ベルさんがあたしの横顔をのぞいていた。


「君は働くのが好きなのだな。こんなに大変な仕事だというのに……」

「うんっ、だってみんなに美味しい物食べてもらいたいもん! あたしのちょっとのがんばりが、みんなの笑顔になるんだよっ!」


「わかりますわ! とっても素敵なお考えですのっ!」

「本当っ!? イベリスちゃんならわかってくれると思ってたーっ!」


 大きな生地がまた1つ出来上がった。

 また半分をロマちゃんに分けて、あたしは街道整備をがんばってくれるみんなのために、バンズの生地を捏ねていった。



 ・



「ベルさん、バンズってこんな感じ?」

「ああ、そんな感じだ。焼き上がったら上下に分かれるように水平に切って、その間に具をはさむ」


 出来上がった生地を丸く平たくなるように整形した。

 ちっちゃなロマちゃんみたいで、あたしの好きなフォルムだった。


 沢山作ってトレイに乗せて、濡れ布巾をかぶせて、しばらく発酵を待った。

 お砂糖を使ったレシピだから、寝かせる時間は長くならないはず!


「さてっ、ベルさんたちは少し休んでて!」

「待て……」


「え、何?」

「あれだけの重労働をしたというのに、まさか君は、まだ働くつもりなのか……?」


「いつもは朝とお昼だけなんだけどね。今はそれだけじゃ村のみんなの分が足りないから」

「ムギちゃん師匠はこういう方ですのよ……。彼女は労働中毒者(ワーカホリック)ですの……」


 でもいつもはロランさんも手伝ってくれるから、こんなのなんでもない。

 あたしがパン焼き釜にフレイムの魔法を放つと、ベルさんとイベリスちゃんが食パンの生地を運んでくれた。


 そこまでがんばったらやっと一息だ。

 あたしたちは居間に集まって、お喋りをしながら休憩を取った。

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