・銀縁眼鏡、海を越える - 聞いてない! -
けれどもあたしたち2人の平穏はホリンにかき乱された。
空から大きな青白い流星が降ってきて、お店の軒先にそれが落っこちた。
流れない人からすれば衝撃の大事件だけど、今のあたしたちにとってはただの日常の1シーンだった。
「ほう、ここがアッシュヒルか」
……ううん、違った。
彼の声を聞くなり、あたしは驚きと戸惑いに硬直した。
きてくれたのは嬉しい。
彼にアッシュヒルを見せたいと、あたしだってそう思っていた。
だけど今は困る!
すぐそこの家には今、ロランさんがいるのに!
「ホリンッッ、何勝手なことしてるのっ!?」
「おう、帰ったぜ。34人の移住希望者たちと、ベルさんと一緒にな」
そう、ホリンは山のような物資と、見知らぬ大勢の人たちと、サマンサのロベール王を持って帰ってきた!
ホリンは勝手なことをしておいて、少しも悪びれていなかった!
んもーっ、腹立つ!
「ふむ、我は歓迎されていないようだな」
「そ、そんなことないよっ! あたしもホリンも、ベルさんに会いたいねって、この前話してたくらいだもんっ! た、ただ……」
あたしがお店の方に視線を送ると、ベルさんもそっちに注目した。
ま、まずい……。
今、中に入られたら、ロランさんとベルさんが鉢合わせになっちゃう!
「どうやらこの村には、何か秘密があるようだな、ホリン?」
「それは自分の目で確かめたらいい。お前の望む答えがあるかもしんねーぜ」
何勝手なこと言ってるしーっ!!
移住希望者さんたちは、アッシュヒルを美しいと口々に褒めれてくれている。
だけど彼らはあたしに歓迎されていないと、そう勘違いしかけていた。
それはそれで心外だ! 迎えよう!
「アッシュヒルへようこそ! あたしはそこのパン屋のコムギッ、こっちは弟子のイースちゃん! えっと、それで……あ、あたし仕事があるから、皆さんまた後でねっ!!」
ベルさんには後で謝ろうと決めて、あたしはお店の中に飛び込んだ。
そしてロランさんの姿を探して厨房に入ると、ロランさんはこんな時だというのに、机を枕にしてうたた寝をしていた!
「ロランさんっ、ロランさんっ、起きてっ、大変なのっ、すぐにこっちにきてっ!」
今は気を使っている場合じゃなかった!
あたしはロランさんを引っ張った!
「コムギさん……? いったい、何事ですか……?」
「良いから早くっ、早くしないと大変なのっ!」
「ふふ……」
「笑ってる場合じゃないよーっ!?」
あたしに引っ張られると、ロランさんは凄く嬉しそうに笑った。
でもホントにそれどころじゃないからっ、あたしはロランさんをお母さんの部屋に連れて行った!
「おや、ずいぶんと綺麗になりましたね?」
「うん、最近コツコツ整理してるの。じゃなくてーっ、ホリンのやつがねっ、アイツッ、ベルさんを勝手に連れて帰ってきたのっ!」
あたしがロランさんに伝えた情報は断片的だった。
でもロランさんはすぐに状況を理解してくれた。
ロランさんはあたしたちがサマンサを冒険して、ロベール王と出会っていたことを知っているから……。
「あの子が、ここに……?」
「う、うん……」
「それはまずいですね。コムギさん、起こして下さりありがとうございます」
「う、うん……。でも、もしロランさんが会いたいなら……」
あたしのしていることは、余計なお世話になる。
ロランさんとベルさんがこっそり会うだけなら、そこまで問題にならないような気もしてきた……。
「止めておきましょう。アッシュヒルが政争に巻き込まれる可能性は、限りなくゼロに近くあるべきです」
「そうかもしれないけど……」
ロランさんが部屋の窓を開けた。
そこからなら屋根伝いに店の裏に出ていけるから、あたしはこの部屋を選んだ。
「私はアルクエイビス様のところに身を隠しましょう。その前にコムギさん、1つ貴女にお願いがあります」
「うんっ、何っロランさんっ!?」
「ロベールをよろしくお願いします。私は彼に責務の全てを押し付けてしまったことが、今でもとても気がかりなのです……」
「もちろん! あたしアッシュヒルをベルさんに見せたかったの! ロランさんの分まで、歓迎は任せて!」
「ありがとう。一目遠くから、あの子を見てから行くことにします」
ロランさんは中年とは思えない身のこなしで、部屋の窓から音もなく姿を消した。
あたしはロランさんが去ったことに安堵した。
だけど同時にこうも思った。
やっぱり、余計なことをしたのかなって……。
その後しばらく考えてみても、どっちが正しいのかわからなかった。
そしたら部屋のドアがノックされた!
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