・これがわたしの故郷! お姫様と行く風車の村! - 貴重な村長さんの水浴びシーン…… -
「ストップッ、ストップ村長さんっ、裸っ、裸っっ!!」
「お? おおっ、こりゃすまんっ、ワハハハッ! ところでそちらの2人は、ムギちゃんのお友達ですかなっ!?」
そう問いかけながら、村長さんは注目に対して思い思いのポーズで見せつけた。
村長さんは、相変わらずだった……。
「いちいち変なポーズ付けるのも止めて下さいっっ!」
「ワシは、ヨブッ! この村のっ、村長にしてっ、ムギィッ、ちゃんのっ、ファンじゃぁぁっっ!! ふぅぅんっっ!!」
止めてって言ったのに、村長さんは筋肉の主張を止めてはくれなかった……。
「あ、あれが、アッシュヒルの、領主か……?」
「へっ、変態ですのっ、胸がっ、胸がピクピクしてますのぉっっ!!」
「え、えっとっ、また後でねっ、村長さんっ!! 水浴び中に、失礼しましたーっっ!!」
あたしは説明を諦めて、イベリスちゃんの手を引いてパン屋に駆けた。
アクシデントはあったけど、玄関口はもうすぐそこだった。
あたしは扉に手をかけて、そしてイベリスちゃんを連れて中に入ると叫んだ。
「ただいまっ!!」
すると厨房からロマちゃんが跳ねてきて、あたしの胸に飛び込んでくれた!
「ロマちゃーんっ、ただいまーっ!!」
「まあっ、ピンク色のスライムッ!? その子、飼ってるんですのっ!?」
「うんっ、こう見えてパンもこねちゃう凄い子なんだよーっ!」
「そ、そんな秘密が、ムギちゃん師匠様のパンにはありましたのっ!?」
ロマちゃんはどこか暖かいところでお昼寝していたのか、抱っこしてて温かかった。
そんなロマちゃんをイベリスちゃんに抱かせてあげた。
「お帰りなさい、コムギさん。おや、そちらのお2人は……」
オレンジブロンドの髪の長いイケメン、ロランさんがエプロンを付けたまま厨房からやってきた。
ロランさんはイベリスちゃんとインスさんを見ていた。
いつもの柔和な微笑みではなく、少し驚いたような表情だった。
「あっ、こちらロランさん! えっと、うちのお店を手伝ってくれているの!」
「まあ……ではうちから見て、兄弟子ということになるのでしょうか?」
「フフ……兄弟子というより、叔父弟子、でしょうかね。私はここの仕事を、コムギさんのお母さんに教わったものでして」
ロランさんがやさしくイベリスちゃんに微笑んだ。
それからインスさんと見つめ合う。
「こちらはイベリス姫。自分は従者のインセンスだ」
「そうですか、イベリス姫、インセンスさん、アッシュヒルへようこそ。私は暇人のロランです」
彼らはなぜだかしばらく沈黙して、見つめ合った。
「……ロラン様。自分たちはどこか、別の場所で、お会いしたことがなかっただろうか……?」
「何を言っているの、インセンス? ん……だけど、そういえば、その長いオレンジブロンドに綺麗なお顔……。あら、どこかで、会ったのかしら……?」
イベリスちゃんはお姫様。インスさんはその従者。
そしてロランさんはサマンサの元王様で、確か昔は使者として世界を巡っていた。
会ったことがあっても全然おかしくない。
「さて、どうでしょうね。私も世界中を旅していたので、どこかで会っていたのかもしれません」
そう言ってロランさんはあたしの荷物を持って、2階の部屋まで運びに行った。
2人はロランさんがまだ気になるようで、階段を見上げていた。
「あ、えっと、居間へとどうぞ! 疲れたでしょ!」
「インセンス、貴方も見覚えがあるのよね?」
「はい、確かに。加えてあの佇まい、ただ者ではないかと……」
お茶の準備をしていると、ロランさんが戻ってきた。
一緒にお茶とお茶請けの支度をしてくれた。
「たった2日で帰ってきたかと思えば、まさかこの国の王女を連れてくるだなんて、さすがに驚かされましたよ」
「あはは、ごめんなさい。でも勇者としての役目も、しっかり終わらせてきましたっ!」
「さすがはコムギさん、鼻が高いです。……しかし、彼女の寝床を考えないといけませんね」
「あ、そういえば……。宿に泊まってもらう……というのも、変な感じですよね……」
「カラシナさんの部屋を整理してみては?」
「え……。いや、でもそれは……」
あの部屋は、あたしには片付けられない……。
でも、もしあの部屋にロランさんが住んでくれたらって、今でもよく思う……。
「昔、貴方の部屋は埃まみれの物置でした」
「えっ、そうだったんですか……?」
「はい。その物置を片付けたのは、他でもない私です。カラシナさんは、部屋の片付けを条件に、私をあそこに住ませてくれたのです」
「じゃあっ、私の部屋は元々、ロランさんの部屋だったってことですかっ!?」
「借りていただけです。さあ、向こうでお友達が待っていますよ、後は私にお任せを」
お客様を居間にそのままにするのも悪いし、ロランさんに言われてあたしはあっちに戻った。
少しするとお茶とジャムを塗ったバゲットがやってきて、楽しいお茶会が始まった。
そしてあたしはこのお茶会が終わった後、思った。
勇気を出して、お母さんの部屋を片付けてみよう……。
本当はロランさんにあげたいけど、しばらくの間は弟子になってくれるイベリスちゃんに、あそこを借りてもらいたい。
そうしてこの日から、あたしの片付けられない毎日が始まったのだった。
手違いで別のお話を投稿していました。
すみません。
ついでと言ってはなんですが、今月6月30日に。
書籍版【ポーション工場】2巻が発売します。
さらに今月下旬、ポーション工場のコミカライズの連載が「マンガがうがう」で始まります。
どうか漫画ともども読みにきて下さい。
漫画アプリ・ガウガウモンスターをインストールして、連載開始を待っていてください。