・鉄壁のメロンパンを作ろう - 真・村長無双 -
ところがそこに、恐怖に震えるかのような男の人の大きな声が響いた。
『大変だーっっ!! 魔物がっ、暴れイノシシが出たぞーーっっ!!』
嘘、魔物っ?!
それもイノシシの魔物なんて、絶対に強い!
「ワシの出番じゃなっ!! 見ていてくれ、ムギちゃんやっ! ワシがホリンより男らしいことを証明してやるわいっ!!」
「ちょっ、ちょっと待ってっ、村長さんっっ?!」
村長さんが駆けた!
あたしも超ムキムキとはいえ、老人をこのまま行かせるわけにはいかなくて後を追った!
暴れイノシシはすぐそこにいた!
背丈だけで1mはありそうな巨大なイノシシが湖の水を飲んでいた。
鋭い牙が正面に突き出ていて、あれに刺されたらいくらムキムキの村長さんでも死んじゃう!
「おいそこのでかいお前っ、危ねーから引っ込めよっ!」
「あ、ホリン……」
「コムギッ?! 何やってんだよ、お前っ!?」
「そっちこそ危ないよっ!」
ホリンがいた。
あの雷神の剣を片手に、鱗の盾を暴れイノシシに構えていた。
「フォッフォッフォッフォッッ! それでこそワシの孫よっ!!」
「孫ぉ? 俺の爺ちゃんなら杖、突いて――へ……っっ?!」
ムキムキの大男の首から上は、ヨブ村長のものだった。
ホリンは口をポカンと開いたまま、暴れイノシシのことも忘れて呆然とした。
「じゃが、武器や防具に頼るとは情けないっ!! 見ておれ、バカ孫よっ!!」
「じ、爺ちゃんっっ?!!」
村長さんが暴れイノシシの突進を受け止めた。
それからそれを、まさかの怪力で押し返してしまった!
「これが、王都で頂点を極めた拳闘士のっっ、右ストレートじゃぁぁぁっ、フヌァァァァッッ!!!」
次の瞬間には、暴れイノシシの牙が真・ヨブ村長さんの拳に負けていた。
爆ぜるような凄い音が響いて、イノシシの片方の鋭い牙が根本からへし折れていた。
勢いを失わずに拳は敵の眉間を貫いて、たった一撃で、モンスターは褐色の小さな宝石に変わりながら消滅していった。
「ふぅっ、久々に滾ったわい! ほれ、見たかホリンよ……?」
「あ、ああ……」
「これが、お前のお爺ちゃんの本気じゃっっ!! あのメロンパンがっ、若い頃の肉体と活力をワシに与えてくれたのじゃっっ!!」
真・村長さんがホリンに向けてストレートを打ち込むと、突風となってホリンの髪を激しくなびかせた。
強い。強すぎる。
ホリンの立場が全くないほどに、村長さんは村最強の座に君臨した。
「コムギッッ! これっ、お前のしわざかっ!?」
「あ、うん……。ごめん……」
「こりゃ、ホリンッッ! もうちょっとムギちゃんを大切にせんかっ!!」
「あの鉄壁の種と薬草、パンに入れてみたの……。そしたら、こうなっちゃった……」
ホリンの大切な家族に大変なことをしてしまった。
申し訳なく思いながらそう伝えたら、でもホリンはニコニコの笑顔に変わった。
「それっ、俺も食うっっ!!」
「えっ……!?」
「おお、そりぁいいっ! ホリンもあのすぃーとなメロンパンを食べて、新たなる拳闘士を、チャンプを目指すのじゃっ!」
え、困る……。
村長さんは元気になったから嬉しいけど、ホリンがこうなるのはあたし困る……っっ!
「待って、ホリン……落ち着いて、落ち着いて村長さんをよく見て……? こんなふうに、なっちゃうんだよ……?」
「最高じゃんっ!!」
「えーーーっっ?! ダ、ダメだよっ、暑苦しいよっ!?」
「筋肉っっ、爆っ発っっ!!!」
「ちょっとっ、2人とも待ってーっ!」
祖父と孫は店主を無視してパン屋に駆け込んだ。
あたしはなんだかもったいなくなって、モンスターから変化した宝石を拾うと、2人の後を追った。
でも、それが間違いだった……。
「金、ここに置いとくぜ。いっただきますっ!」
「ダメッ、ホリンはそのままのホリンでいてっ!!」
ホリンがメロンパンをがっついた。
ホリンの口にも合ったみたいで、何も言わずに凄い勢いで食べていった。
あたしはその食べっぷりが嬉しかった。
でも、筋肉ダルマになったホリンなんて困るっ!!
「ふぅぅ……美味かった! お前、パン作りの天才なんじゃないか!?」
「えへへ、そうかな……ありがと! で、でもぉ……」
「これで俺も爺ちゃんみたいになれるのかぁ……」
「ホリンよ、そんな剣など捨てよ。男は、この拳二つで十分じゃ」
ホリンは二の腕を折り曲げて自分の筋肉を確かめた。
変わっているようには見えなかったけど、細くてたくましくてカッコイイ腕だった。
よかった……。
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