・偽皇后をやっつけよう! - 地下通路からお城へ! -
だけどお腹空いてきたし、細かいことなんてもうどうでもいいと思う……。
早く終わらせて、スイセンの美味しいご飯が食べたい。
「別にいいだろ、正面から偽皇后に挑むよりはまだ懸命だしよ?」
「それは、そうなのだが……。君たちとの旅は、あまりに展開が早過ぎて、頭が付いていけん……」
「だけどインセンス! この道を使えば、偽お義母様にこの鏡を突き付けるのも容易になりますわ!」
「姫さんの言う通りだぜ。偽皇后の姿さえ暴いちまえば、後はそいつをやっつけるだけだ!」
「親衛隊をまとめて相手にするよりは賢明か……。いいだろう」
スイセンって何が名物なんだろう。
『ご飯食べてからにしよう?』って言える雰囲気じゃないなぁ……。
「えっと、じゃあ明かりの魔法を作るから、それぞれで管理してね?」
ぼんやりと光る魔法の照明、ライトボールを4つ作ってみんなに配った。
それから率先して下っていってくれたホリンを先頭にして、あたしたちは隠し通路を下った。
『ちなみにだが、このルートはあの町外れの魔法使いが、一晩に渡る壮絶な昔話の果てに教えてくれる道だ』
「あはは……そんなに長かったんだ……」
バッグの中の攻略本さんにあたしは小声で返事した。
『ああ、あの老人の話は、本当に、果てしなく長かった……。君たちはもっと私に感謝してくれていい。あんなお喋りな老人は、この世に2人といない……』
やがて階段を下り切った。
あたしたちは並んで歩くには狭い石造りの通路に出た。
床が苔むしていてなんだか少しヌルヌルとしていた。
「ではっ、足下に気を付けてどんどん行くよっ! イベリスちゃん、あたしの手をどうぞ!」
そうなるとイベリスちゃんが滑らないかちょっと心配だ。
そこであたしは、お姫様の手を取ってエスコートした!
「ふふふっ、ありがとう、ムギちゃん様っ!」
「揃って転ぶなよー?」
「はいはい、ホリンは護衛をお願いね! インスさんも後ろをお願い!」
「承知している」
あたしたちは手を取り合って、不気味な地下通路を進んだ。
地下は思っていたより暖かくて、それに湿気があって少し息苦しかった。
「キャッ?! ご、ごめんなさい、ムギちゃん様……」
「いいよいいよ。お姫様のお手を取って歩いたって、村のみんなに自慢できちゃ――わっ、わわっ?!」
後ろを向いて歩いたから、足下が不注意になっていたみたい。
あたしは前を歩いていたホリンに抱き支えられていた。
「いやお前も気を付けろっての……」
「あ、ありがと、ホリン……」
「なんか昔を思い出すな。お前がガキだった頃は、俺の後をちょろちょろ付いて歩いてきてよ……」
「うんっ、あの頃はホリンが凄くおっきく見えた!」
「おう、お前の方はでっかくなった」
そう言ってホリンは昔を懐かしむと、またパーティの先頭として道を進んでいった。
そうしてゆくと道が段々と広がって、3人くらいが並んで歩ける広さになってた。
そろそろお城の下あたりなのかな……。
そんなふうに思いながらL字になった道を曲がる。
するとあたしたちはその先の道で、世にも不気味な者と遭遇してしまった!
「ひっ、ひぇっっ?!」
「ビ、ビッグスラッグゥ……!?」
巨大なナメクジが道を塞いでいた!
こんなの、お化けの方がまだマシだよぉーっっ!?
「インセンスッ、早くあれをどうにかしてっ! き、気持ち悪い……っっ」
「御意……!」
ホリンとインスさんが前に出た。
だけどあたしはつい身体が動いてしまって、2人を左右に押し退けていた!
「いっいいいっっ、イヤァァァーーッッ!!」
なんか気付いたら、全身全霊のフレイムの魔法を、あたしはその灰色の巨大ナメクジに撃っていた!!
赤々とした炎がナメクジを包み込み、そのナメクジは炎に巻かれたまま暴れ回った!
「突っ込んでくんぞ、アイツッッ!? インスッ、コムギたちを下がらせろっ!!」
「了解だ!」
あたしとイベリスちゃんはインスさんに引っ張られて、通路を後退した。
ホリンが時間を稼いでくれたおかげで、どうにかあたしたちは逃げ切れた。
だけど、ホリンは……?
あっちからなかなか戻ってこないから、心配になった。
でもホリンは無事だった。
ホリンが右手をしきりに下へ振りながら、L字の道からこっちに姿を現した。
「ホリン……?」
「おう、どうかしたか? あのビッグスラッグなら、お前の魔法で燃え尽きちまったぜ」
あたしはホリンから灰色の宝石を受け取った。
だけどあたしはホリンの手が気になって、その右の手のひらに触れた。
「あたたたっっ、触んなよっ!?」
「あ、あたしのせいで、火傷しちゃったの……?」
「ちょっと燃えた体液がくっついただけだ。それにあのままぶつかったら、どっちにしろ俺とインスさんはヤバかった」
回復魔法を使ってあげようと思って、あたしはホリンの手を取った。
えっと、でも火傷の治癒魔法って、どうやるんだっけ……。
お母さんに教わった方法を思い出そうとしていると、そこにイベリスちゃんが駆けてきた。
「火傷くらいならうちにお任せを。ホリン様、お手をこちらに」
「おっ、やっと名前で呼んでくれるんだな?」
「ええ。従者ではなく、ムギちゃん様の愛の僕だったんですのね」
「いや全然ちげーよっっ!? お……おお……っ」
イベリスちゃんはキラキラと緑色に光る回復魔法を使った。
その魔法はあたしよりもずっと上手で的確で、ホリンの赤く腫れた火傷はすぐに消えていた。
「どうですか? もう痛くはありませんか?」
「すげぇ……もうなんともないぜ!」
「ふふふっ、実はムギちゃん様のパンを嗜むようになってから、なんだか魔法の方も絶好調ですの」
「ああ、あれって人を成長させるパンだからなー」
「まあ、そうなんですのっ!?」
「ちょっとホリン……ッ」
「言われてみれば確かに……。コムギ様のパンを分けてもらうようになってから、剣の冴えが妙に良い……」
ホリンはあたしのパンの秘密をあっさり2人にバラした。
そんなホリンの背中を押して、『これ以上余計なことを言わないでよ』って意志表示をした。
「隠すことねぇだろ。特にイベリスはお前の未来の仲間だぜ」
「正史ではそうかもしれないけどっ、ここは物語のオープニングをぶち壊した後の世界なんだってばっ!」
あたしたちはまた並んで、そろそろ終点であってほしい地下通路を進んだ。
すみません、更新が遅くなりました。