・偽皇后をやっつけよう! - 安心安全、少しスリリング -
ホリンのテレポートは安全。
そう知っているあたしには爽快で楽しい空の旅も、初体験の2人にとっては大事件どころか災害みたいなものだった。
「スイセン西門前――に飛んだらさすがに目立つし、手頃なところに移動させてみた」
「ぐっじょぶ、ホリン!」
イベリスちゃんとインスさんは、あたしの向かいの席で両肩を抱き合っている。
2人とも驚きに目を見開いたまま固まっていて、窓から外を呆然と見つめていた。
ホリンは馬たちを落ち着かせた。
何も見なかったことにして、馬車を出発させた。
「イ、インセンスッ、離れなさいっっ!!」
「も、申し訳ないっ、姫様っっ!!」
すると2人はまるで磁石みたいに弾けて、今度はそれぞれが左右の窓にくっついた。
「あ、いえ……うちを、必死で守ろうとしてくれたのはわかります……。け、けどっ、ムギちゃん様の前ですのよ……っ!?」
「俺も居るんだけどな……」
なんだかとっても微笑ましい光景だった!
そういえば攻略本には、イベリスちゃんはインスさんに惹かれているって載ってた!
見た感じ、インスさんもイベリスちゃんに気があるのかも。
どっちも凄くうろたえているし、イベリスちゃんなんて目が潤んじゃってる……っ。
「姫様、この件は、陛下にはどうか内密に……」
「あら……ふーん。それはどうして、ですの……?」
だけどインスさんが我に返ると、幸せそうだったイベリスちゃんが途端に不機嫌になった。
「自分は姫様の護衛だ。もし陛下の誤解を受ければ、自分は首どころか、投獄までされかねない」
「あっそうっ! ならお望み通りっ、お父様に告げ口してあげますわっ!!」
「な、なぜそうなるっ!? 待ってくれっ、頼むっ、それだけは勘弁してくれっ、姫様っ!!」
「お父様が何よっ、インセンスなんて大嫌いっ!」
ついさっきまで良い雰囲気だったのに。
これが噂の身分差……?
身分差のあるカップルって、凄く大変だ……。
「そろそろ城門だぜ、お前ら身を隠さなくていいのか?」
「イベリスちゃん、気持ちはわかるけどちょっとだけ我慢してね……?」
あたしは馬車室から飛び降りると、御者席の隣まで併走した。
ホリンが手を差し伸べてくれたからそれにしがみついて、御者席に上がるとホリンと並んで座った。
「あいつら見てらんねーな……」
「あはは、そうだねっ」
ホリンと耳打ちをし合ってから、あたしは後ろをのぞき見る。
ちょうどインスさんがイベリスちゃんに、毛布を丁重にかぶせて中に隠れようとしているところだった。
インスさんはあたしと目が合うと、困り果てたように首を左右に振って見せた。
それからイベリスちゃんと一緒に、馬車室の底に隠れた。
「で、コリン。目的地は?」
『うむ、行き先は公園墓地だ。このまま大通りを道なりに進むと、右手に大きな市民公園が見えてくる。そこの墓地に、城へと通じる隠し通路がある』
「墓場に、隠し通路があるのか……?」
「えぇ、お化けとか出そう……」
『さて、それは出会ってからのお楽しみだ』
う、嘘……お化け、本当にいるのっ!?
『ふふ……っ、君たちからすれば大変なのかもしれないが、私にはとても楽しい旅だ。本当にありがとう、コムギ、ホリン……』
「へへ、別に気にすんなって。おかげで助かってるし、俺は俺なりに楽しんでる」
あたしたちは西門を抜けた。
それからわざとホリンに町並みについての話をしたりして、馬車室の2人から気をそらすことにした。
『もう出てもいいよ』と、そう声をかけるのはもうちょっと後にしよう。
そんなあたしの意図をホリンも気付いてくれたみたいだ。
ホリンも後ろに流し目だけを送って、何も言わずにあたしとのお喋りに戻ってくれた。
花々の咲き誇る美しい大通りは、いくら見ても飽きない楽しい散歩道だった。
・
「ごめんねっ、お喋りに夢中で忘れてたよっ!」
墓地に着いた頃には夕日が沈んでいた。
あたしは御者席を降りて、中のイベリスちゃんを外へエスコートした。
「べ……別に、かまいませんわ……。ふ、ふぅ……っ」
2人ともまた顔が真っ赤!
インスさんは何も言わなかったけど、あのパリッとした感じが、嘘みたいにだらしなくなっている。
こうして見ると、あたしの目には惹かれ合っているようにしか見えなかった。
「ここは、墓地か……?」
「うん、ここにね、城に繋がる地下通路があるの」
「えっ、そんなものがありましたの……!?」
あたしとホリンは力を合わせて【エクス・イットマン】さんの墓石を動かした。
するとなんとその下には、石の隠し階段があった!
「ま、まあっ!? 本当にありましたわっ!?」
「もはや予知という次元ではない気がするのは、自分の気のせいか……?」
ですよねー……。
無理しかないですよねー……。
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