・超効率攻略も始まりました - もうどうにでもなーれ -
『では、スイセン北東で暮らす魔法使いのところまで案内しよう。全て私に任せてくれ』
よくわからないけど、攻略本さんの言う通りにすれば早く終わるらしい。
お話として大切な展開を飛ばしているような気もするけど、最短で解決するならこっちの方がいいよね!
「まずはどこかで宿を取ろう。どうやって偽皇后を倒すのか、皆さんと慎重に話し合いたい」
「本物のリシェスお義母様の行方も気になります……。どこかで情報を手に入れませんと……」
えっと……どうしよう、ホリン?
なんて言えばいいのかわからなくて、ホリンに目で助けを求めた。
ホリンはそんなあたしに仕方なさそうに微笑んでくれた。
「あー、その話っすけど、コムギのやつがすげー作戦をひらめいたみたいっす」
「えっ、ええーーっっ?!!」
「全部コムギちゃん様に任せとけばどうにかなるっすよ」
「ちょ、ちょっとぉーっっ!?」
だけどホリンを信頼したあたしがバカだった……。
ホリンのやつ、手柄をあたしに全部着せるつもりだ……。
「コムギ様、いったいどうするつもりだ?」
「うちは……うちはコムギちゃん様を信じますわ!」
「えっ!?」
「どうかうちらをお導き下さい、コムギちゃん様っ!」
『フフ……これで話を通しやすくはなったな。……ホリン、そこを左だ』
今のあたしは、攻略本さんの、操り人形……?
攻略本さんがホリンに指示を出して、ホリンがその通りに道を曲がっていった。
『『城から追放された魔法使いの噂を聞いた。今から彼の隠れ家に行く』と、彼らに伝えてくれ』
もうどうにでもなーれ……。
あたしはそっくりそのままの言葉を復唱した……。
すると――
「それ、偽お義母様が追放した方ですのよっ!?」
「自分はこれから、そのカシス様の行方を探すよう提案するつもりだったのだが……なぜ、コムギ様が居所を知っているのだ……?」
ほらこうなったじゃない!
順序を吹っ飛ばしてゴールに行こうとしたら、そりゃこうなるに決まってるよっ!
『うろたえることはない。『あたしには予知能力があるの。さっき急にひらめいて、わかっちゃった!』と、答えればよい』
「え、えぇぇ……? ねぇ、攻略本さん……それ、どうしても言わなきゃダメ……?」
『君は予言者カラシナの娘だ。アッシュヒルも予言で救った。君はれっきとした予言者だ、何も問題ない』
あるよ、あるに決まってるよ、あたし嘘は苦手だもんっ!
だけどイベリスちゃん、凄く落ち込んでいたし……。
早くハッピーエンドに連れて行ってあげたい気持ちとかもある……。
「あ、あたし……予知能力が、あるの……」
「まあっ!?」
「あたしのお母さんも予知の力があって、それが遺伝したみたい……あ、あはは……」
「オブラートに包まずに言おう。自分にはとても信じがたい話だ」
ですよねーっ!!
だってあたしそんな力とか、お母さんみたいな神秘性なんてないもん!
未来をただ教わってるってだけだもん!
「うちは信じますわ」
「え、本当……?」
「はいっ! だってムギちゃん様のあのパンは、この世の奇跡そのものですものっ! あんなに美味しいパンを焼ける人なんですから、予知だってチョチョイのチョイですわっ!」
む、ムチャクチャだぁ……。
パンの美味しさと予知、全然繋がってないしっ!
「む……コムギ様のパンのあの味わいは、確かにこの世の奇跡そのもの。予知もできて、当然というわけか……」
「お、おう……」
この2人、本当にあたしのパンのファンなんだ……。
それも、熱狂的な……。
それもそうだよね、バケット1つに5Gも出すくらいだもん……。
それって相当にハマッてくれてるってことだ……。
「とにかくそこに行きまーすっ! みんな、あたしについてこーいっ!?」
「はいっ、ムギちゃん様のお導きに、うちはどこまでも付いていきますわ!」
「姫様がそうおっしゃるならば、自分もただ従うまで」
無理のある嘘って、疲れる……。
とにかくそういうことになって、あたしたちは魔法使いカシスさんの隠れ家を訪ねた。
・
カシスお爺さんはお姫様の姿を見ると、何も言わずにあたしたちを中へと入れてくれた。
無言で地下室に降りてゆき、出入り口をインスさんが閉じると、彼は大きな声を上げた。
「姫様、ご無事でございましたか!」
イベリスちゃんとインスさんが事情を伝えた。
偽皇后の正体は魔物! 点と点と繋がって謎が解けた!
そんな感じで話が盛り上がったところで、あたしは口をはさむことになった。
『コムギ、『鏡の塔の鍵を貸してくれ』と言ってくれ』
「えっと……あたしたちそれで、鏡の塔ってところの鍵が欲しいんだけど……」
欲しいんだけど、話をはしょり過ぎていて、あたしにもよくわからないです、正直……。
「おお、ミラー・レイを取りに行かれるのですな! ワシも同じことを考えておりました! 真実の姿を映し出すという秘宝――」
みらー・れい? 真実を映す……?
攻略本さんをのぞく全員が、満足にこの話に付いていけていなかった。
『とにかく鍵を寄越すように言うといい。この後の話は非常識に長かった』
よくわかんないけど、話長いのは困るなぁ……。
「被害が出る前に急ぎたいのっ、早く鍵をちょうだいっ!」
「いえ、ですがお嬢さん、この鍵はワシの半生と深い繋がりが……。そう、あれはワシが27の時であった……。当時ワシは……」
「おい、ぜってークソ長げぇやつだぞ、これ……」
半生? 27歳からの回想っ!?
無理、そんなの全部聞いていられないっ!
「その話は後でインスさんが聞くから、今は鍵を先にちょうだいっ!」
「じ、自分は、遠慮したいのだが……」
「そうか……? ならば、約束であるぞ、インスよ?」
「くっ……。わ、わかった……。後で聞くから、早く鍵をくれ……」
お爺さんは大きな鉄の鍵をネックレスにしていた。
それを取り出して、嫌そうにしているインスさんに手渡した。
『『では出立する。今から向かえば夕方には塔に着く。塔は30分で攻略可能だ』と伝えてくれ、コムギ』
ええ……っ、決断早くない……?
あ、あたしのキャラが、どんどんメチャクチャになってゆくよぉ……。
それに魔物のいる塔を30分で攻略って、そんなこと本当にできるの……?
「……さあっ、今から鏡の塔に行くよ! 夕方には着くし、あたしとホリンにかかれば、30分でサクッと攻略できるから、大丈夫っ!!」
……だよね?
ホリンに確認の横目を送ると、さすがのホリンも顔をシワクチャにして当惑してた。
「追っ手を考えれば、スイセンに残る方が危険。なるほど、見事な慧眼だ」
「ムギちゃん様! ムギちゃん様はうちのことを心配して、そこまで考えて下さっていたのですのね……っ!」
違います……。
だけどそうした方がいいのかなって思って、あたしは破れかぶれでみんなを馬車に導いた。
イベリスちゃんとゆっくりと話したかったから、ちゃっかり馬車室に入ったけど。
「道はホリンも知ってるから、後よろしくね!」
そう言ってあたしはバッグを御者席のホリンに投げた。
「おう、大聖女コムギのお導きだ。俺たちに任せとけ」
「なんと頼もしい……」
「見習いたいリーダーシップですの!」
あたしはたくさんの誤解を抱えたまま、スイセン東の門を抜けて、丘の彼方の鏡の塔を目指した。
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