・メインストーリー、なんか始まりました - イベリス姫は私の仲間! -
「わかったっ、この件はあたしたちに任せて!!」
あたしがそう叫ぶと、ずっとうつむいていたイベリスちゃんが顔を上げた。
あたしはイベリスちゃんに『大丈夫だよっ』って笑い返した!
「やるしかねーみたいだしな……。しょうがねぇ、俺たちに任せな、イベリス!」
「あ……っ、ありがとうございますっ、コムギちゃん様の従者様っ!」
「だから俺は従者じゃねーっつのっ!」
「あら? では、お二人はどういった関係で……?」
「ど、どうって、そりゃ……」
後ろを向いていたホリンが、チラッとあたしを見た。
幼馴染みって答えればいいのに、ホリンは言葉を迷っていた。
うーん……。
今のあたしたちって、言葉にするとどういう関係……?
あたしはホリンのことが男の子として大好きだけど、ホリンはあたしをどう思っているんだろう……。
「そんなことよりも姫様、もうじきスイセンの城門だ。念のため、身を隠すことを提案する」
ホリンがなんて言ってくれのるかちょっと期待しちゃったけど、その話はインスさんにより中断させられた。
「あら、なんでですの?」
「このお姫さん、自分が暗殺されかかったことに、まだ気付いてないのかよ……」
「えっ、暗殺?」
「お前もかよっ! さっきの話を繋ぎ合わせれば、そういうことだろがっ!」
あっ、そっか、偽皇后もさっきの鎧も、どっちも魔物だ!
正体に気付いたイベリスちゃんを、仲間の魔物が暗殺しにきたってことだ!?
「ではコムギ様、すまないが御者席へ移ってくれ。自分はイベリス様と身を隠す」
「わかった! イベリスちゃん、ちょっと後でね!」
そういうことらしくて馬車が止まった。
あたしは御者席に移って、馬車室で毛布の下に身を隠す男女を盗み見ることになった。
「姫様、少しのご辛抱を」
「ぁ……っ、ぅ、ぁ……っ、は、はい……」
イベリスちゃん、かわいい……。
それにさすがお姫様だ。
やっぱりお姫様って男の人に免疫がなくて純情なんだ……!
「村滅ぼされて落ち延びたかと思ったら、次は偽皇后騒ぎか。コリンのやつ、ハードな人生過ごしてたんだな……」
「うん、そうだね」
全てを失った攻略本さんはイベリス姫と出会い、彼女を助けることにした。
ホリンならきっとそうするって、ホリンになり切っていた攻略本さんはそう考えたのかもしれない。
そこであたしは気になって、攻略本さんに目を通してみた。
すると――
「大変、ホリン……ッ」
「城門が近いんだから、それは隠せって……っ」
「それどころじゃないよっ、これ見てっ、これっ!」
「なんだよ? ……お」
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【名前】イベリス・ホワイト=ロータス
【年齢】18
【性格】あまのじゃく、食いしん坊
【特技】営業、帳簿管理、回復魔法
【生い立ち】
スイセン王家の傍流、その三女として生まれる。
育ちはモクレン。父はモクレンの総督。
あまり王族としては注目されることもなく、賑やかな港町で普通の町民の娘のように育つ。
しかし父が王位を継ぐことになり、モクレンからスイセンに移り住む。
それなりの作法は覚えていたが、王宮暮らしが慣れない。
趣味は食い歩き。
脱走癖から護衛のインセンスを付けられ、自分を理解してくれる彼に惹かれていった。
スイセン編終了後は、パーティの仲間に。
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イベリスちゃんはなんと!
攻略本さんと一緒に魔王をやっつけた大切な仲間だった!
・
スイセンの城門をくぐると、あたしは最初にこう思った。
あれ、思ったよりちっちゃい……?
『都市としてはモクレンの方が大きい。何せ海路には陸路に現れる魔物が出ない。貿易港は栄えて当然、というわけだ』
「コムギによぉ、んな話したってムダだと思うぜ……」
ホリンは本当に失礼なやつ!
でも半分くらい当たってたし、イベリスちゃんたちが後ろにいたからあたしは黙った。
「あ、そろそろいいよ。だいぶ前から兵隊さんの姿とかは見えなくなった!」
「ぷはぁっっ! は、ははは、早く言って下さいましっ、そういうことはーっ!」
「あはは、ごめんねっ、イベリスちゃん!」
息も抑えて我慢してたのかな。
イベリスちゃんの顔が真っ赤になっていた。
「長々と4,5分間。己の主人とにらみ合いは、さすがに堪えるな……」
「ならあっちを向けばよかったじゃないですのっ!」
「すまない、動いたら気付かれるかと思った」
「もうっ、うちは貴方のそういう朴念仁なところが、大嫌いですのっ!」
インスさんも息を我慢してたのか顔が赤かった。
一緒に顔を赤くする2人がちょっと気になったけど、あたしは物珍しいスイセンの町並みの方に目を奪われてしまった。
「それにしてもすっごいっ、お花がいっぱいっ!!」
「店のどこもかしこも花を飾ってんだな……」
賑やかさはモクレンの方が上だったけど、ここは色とりどりのお花が街並みを飾り立てていた。
長い花壇が大通りの左右に走っていて、赤青黄色、まだ咲いていない緑色が華やかに町を彩っていた!
「ムギちゃん様ならそう言ってくれると思いましたわ。モクレンの方が、ずぅぅぅーっと立派ですけど!」
「姫様はモクレン出身なのだ。……かくいう自分もだが」
ごめんなさい、それもう知っています……。
海の向こうのベルさんみたいに、イベリスちゃんにも脱走癖があることまで。
ズルして知っちゃってました……。
『隠しアイテム探しは平和になった後を推奨する』
「あ、それもそうだね」
声を潜めて、バックの中にあたしは答えた。
端から見ると怪しいかなってホリンの方を見たら、怪しむような目をされた。
『よければ寄り道を省いた最速クリアのルートを私から紹介するが、君たちはどうしたい?』
ホリンがあたしにうなずいた。
なのであたしはまたバッグの中に口を寄せて『お願い、攻略本さん』と伝えた。