・ホリンと一緒に王都スイセンに行こう! - シナリオ通り? -
今から数日前――
山道を下って赤い街道に出て、ブラッカまで歩くとあたしたちは町の聖堂に寄った。
ホリンは嫌がったけど、それが本来あるべきストーリーだったから。
『ブラッカの町に落ち延びると、そこで気が緩んだのだろうな。私は町の正門で倒れて、目覚めると聖堂の一室に寝かされていた』
これからの旅は以前と少しだけ違うことがある。
それは攻略本さんだ。記憶を取り戻した攻略本さんは、以前にも増して頼りになった。
『司祭に一部始終を話したよ。彼は立派な方でね、私を慰めてくれると、アッシュヒル滅亡の一部始終を王に伝えるように促した。これが私の最初のクエストというわけだな』
勇者の足跡をたどるために、私たちは祭壇にいた司祭さんに声をかけた。
するとちょっとおかしなことが起きた。
「へ……っ?」
「少女よ、何も言わずこの紹介状とお金を受け取ってもらいたい」
「えっえっ、なんでーっ!?」
「わからない……」
「わからないって言われてもっ、こっちもわからないよーっ!?」
「なぜだかわからないが、そうしなければいけない気がするのだ……」
私たちは司祭さんから100Gと、この国の王様への招待状を渡された。
釈然としない顔だったけど、こっちもわけがわからなかった!
「どういうことだよ、コリン?」
『恐らくだが、それが物語の台本だからだろう。生前は私も、司祭様から100Gと紹介状を渡された』
よくわからないけど、これでスイセンに行ってもいいってことかな……?
攻略本さんが言うには、こういうのは順番が大切だそうだ。
「じゃ、フクロウ亭でちょっと休んでから、スイセンに出発しよーっ!」
「あの姉ちゃんのいる店か……。また余計な茶々を入れられそうだ……」
「えーっ、良い人だよー! ロランさんのファンだって言ってたし!」
「ロランさんを嫌いになるやつなんて、そうそういないっての……」
私たちは聖堂を出て、フクロウ亭のお姉さんのところで少し休んだ。
やっぱりお姉さんは良い人だった。
「いいなぁ……いつか私もロラン様に会いにアッシュヒルに行こうかな!」
「うんっ、あたしも歓迎する! いつか遊びにきてね!」
少し長めに宿のエントランスで食事と休憩をすると、あたしとホリンはお別れを告げてブラッカの町並みを駆けた。
遅れた予定は走って取り返せばいい!
「元気だよなぁ、お前……」
「だってあたしパン屋だもん! 元気がなきゃ続けられないよ!」
ブラッカの西門を出て、いつかのように街道を走って抜けた。
ホリンと一緒にスライムと戦った荒れ地を抜けて、マホウツカイと戦った深い森を駆け抜けた。
敵? 現れたけど足でまいちゃった!
ホリンは少し不満そうだったけど、早くスイセンに行きたかった!
「ここ、懐かしいね! 前はここの分岐をモクレンの方に行ったんだよね!」
「んでお前はユリアンさんの乗る馬車に不用意に近付いて、ああなったと」
「そうそうっ、懐かしいねっ!」
「いや少しは反省しろ……。相手がスケベ貴族だったらどうするんだって、あの時も言っただろ……っ」
「うんっ、だけど超イケメンの海賊さんだった!」
「おう、そこは認めるけどよ、俺が言ってんのはそういう意味じゃないっての……っ」
というわけで、あたしたちはあの分岐を今度は北に進んだ!
もちろん、元気な駆け足で!
『コムギのこの気質はもはや仕方あるまい。ところで良ければ、スイセンについて私から解説しようか?』
「おっ、頼むよ、コリン!」
『コリン呼ばわりはよしてくれ。今の私は勇者ではなく君たちの攻略本さんだ』
モクレン方面は森や小さな丘が多いみたいだ。
丘と丘の間に街道が走っていて、それがグネグネと左右にくねっている。
秋を迎えた木々は赤や黄色に色付いていて、色んな木の実があちこちに散乱していた。
熟して落ちた木の実が臭かったけど、おかげでリスや小鳥をホリンといっぱい見れた!
『スイセンはモクレンと密接な関係がある。モクレンの町を分断していたあの川は、王都スイセンに繋がっているのだ』
「へー、あれの上流か」
『うむ。スイセンでは工業が発展している。上流のスイセンから交易品を川に流し、下流のモクレンで受け取って国外に輸出するというわけだ』
「こーぎょー……? あ、サーカスの人たち? えっ、川に流しちゃうのっ!?」
あ、やっぱり、違うらしい……。
ホリンが走りながらあたしに呆れ果てた目を送っていた。
「俺がやってることも、一応工業だっての……。お前は俺の仕事の何を見てたんだよ……」
「つまり、スイセンは技師でいっぱいってこと?」
『そういうことだ。それと花々の球根を育て、それを輸出する商売もしている』
「スイセンはお花もいっぱいってこと?」
『そうだ。君たちもきっと気に入る』
「あたしそれ、早く見たい! ホリンッ、急ごう!?」
「へいへい。花じゃ腹膨らまねーけど、美味い物もありそうだな」
あたしとホリンは駆け足のペースを上げて、右に左にグネグネとくねる街道を走った!
いっぱい走ればお腹が空く。
そしたら美味しいスイセンのご飯がもっと美味しくなる! 完璧な計画だった!
・
「あれ……? 何か見えない、ホリン?」
もうちょっとでスイセンだと攻略本さんが教えてくれた。
だけどそのすぐ後、道の彼方に馬車と人だかりに似た何かが見えてきた。
「なんか見えるな。立ち往生……?」
『……あ』
攻略本さんはあれがなんであるか知っているみたいだ。
ちょっと抜けたような声を上げていた。
『すまん、急いでくれ。あの馬車を囲んでいるのは、モンスターの群れだ』
「ちょっと待てよ、おいっ!? んな大切なことを忘れてたのかよ、お前っ!?」
大事件だった!
早く馬や馬車の人たちを助けなきゃ!
『うむ、すまぬ。君たちとの旅がとても楽しくて、ついうっかりな……』
「コムギッ、お前は離れたところから援護しろ。俺はあれに突っ込む!!」
「うんっ、わかった!」
今のホリンなら大丈夫!
だってアッシュヒルを救うために、あたしが強くしたホリンだもん。
今なら剣で殴られても平気なはず!
あたしたちは加速して馬車に近付いた。
本当にこの人だかりはモンスターだった! いかにも強そうな動く鎧たちが馬車を囲んでいた!
馬車の人たちがそいつらと戦っている。
ホリンが包囲を強行突破して、あたしはそれに合わせてフレイムの魔法で援護した!
「あれ、効いてない……?」
『サムラウヨロイに炎魔法は効かない! 別の魔法にするのだ!』
「えーーっ、それ先に言ってよーっ!?」
ホリンは馬車の人たちと合流できたみたい。
今日までフレイム一辺倒だったあたしは、街道外れの木陰に隠れて魔法の練習から始めた。
えーと、氷がこうで……風が……ぅぅ、意外と難しい……。
『あれには電撃魔法がよく効く』
「そ、そんな難しい魔法できないよーっ!?」
『君は私だ。君ならば撃てる』
「えぇっ、で、でもー……」
『いいからやるのだっ、ホリンを驚かしてやれっ!』
「う、うん……び……びりびりぃぃーっっ!!」
叫びながら両手を突き出したら、本当にビリビリの電気が出た!
電気が次々と鎧の怪物に連鎖して、こっち側にいた全部がガチャンと崩れて動かなくなっていった!
「雷が弱点かよっ、はははっ、ついてなかったなぁ、お前らっ!」
するとホリンもあたしのまねをした。
雷神の剣を使って雷を落とすと、鎧の怪物がまとめて動かなくなった!
全部の鎧が宝石に変わって消えるまでに、そう時間はかからなかった。