・勇者の故郷、アッシュヒルが滅びる日 - ロマ -
『急げ、追ってくるぞ!』
「えーーっっ、なんであたしばっか狙うのーっ!?」
『君が彼らにケンカを売ったからだっ!』
「だってっ、あそこでああしなきゃみんながーっ!」
『いいから走れっ、君が死んだら元も子もなかろう!』
また、あたしと魔物の追いかけっこが始まった。
前を守ってくれる戦士さんたちがいれば、1体ずつ後ろからやっつけられるのに……。
『待て、前方にスライムだ! 我々は待ち伏せ――ロマッ?!』
「あっ、ロマちゃんだ! お~~いっ!」
ロマちゃん、みんなにピンチを伝えてくれたんだ!
ああよかった、後は西門に向かって走れば仲間が――
「あれ、ロマ、ちゃん……?」
『走れ、ロマ!』
ロマちゃんの前を勢い余って通り過ぎた。
あたしは急停止して、動かないロマちゃんに戸惑った。
「行こうよ、ロマちゃん……!」
ロマちゃんは逃げようとしない。
あたしたちに振り返りもしなかった。
『バカを言えっ、お前も一緒にくるのだ、ロマ!』
「ねぇ、攻略本さん、この子なんて言ってるの……?」
『ロマは、こう言っている……。仲間が待っている、先に行け、と……』
「そんなことできないよっ、行かないならあたしも一緒に戦う!」
『コムギ、大好き。生きて。幸せ、ありがとう。……そう言っている』
ロマちゃんが急に悲しいことを言うから涙が吹き出してきた。
あたし、こんなことされても嬉しくない……!
「ヤダヤダッ、ロマちゃんのいない生活なんてヤダよっ!! ロマちゃんが逃げないなら、あたしもここに残る!!」
あっ、そうだ、ロマちゃんを抱っこして連れてっちゃえばいいんだ!
あたしはしゃがんで、ロマちゃんを抱え上げようとした!
「お、重……っっ?! えっ、ロマちゃんっ!? えっえっえっ、えーーーーっっ?!!」
だけど何か不思議な青白い光がロマちゃんを包み込んで……なんか、ロマちゃんがどんどん膨らんでいった!
ロマちゃんが……あたしのかわいいロマちゃんが……
ダンさんみたいになっちゃった……。
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【名称】ロマネコロネ
【種族】スライム・キング
【LV】57
【特技】ぶちかまし、踏みつけ
【特性】物理無効
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えっと……え、レベル、57……?
「……えっ、強っっ?! ロマちゃん、強っっ?!」
『想像はしていたが、想像以上の成長だ……。いや、君のパンを毎日あれだけ食べているのだから、ロマが弱いはずがないのだがな……』
敵が迫っていた。
氷の槍がビュンビュン飛んできた。
ロマちゃんが盾になってそれを受け止めて、氷の槍をアイスみたいに食べちゃった!
ロマちゃんは突進した!
スケルトンの大軍に体当たりをぶちかました!
その骨の体をボリボリに踏みつけて、体重任せの突進で、目の前のありとあらゆるものを吹っ飛ばした!
フレイムの魔法はロマちゃんの援護にならないから、あたしもクッキーナイフでスケルトンをさくさく砕いた。
どんな攻撃もお鍋のふたが防いでくれた。
凄い勢いで薙ぎ払われたのに、ガードの反動が全くなかった……。
さすが、+99だった……。