・勇者の故郷、アッシュヒルが滅びる日 - 巨人と最強の老人 -
・気弱な巨人
怖い……。
俺、約束したのに、逃げた……。
自分の開拓地を棄てて、森の中で頭を抱えて縮こまった。
俺、やっぱりなれない……。
ロラン様みたいに、なれない……。
「ぅ、ぅぅ……ぅぅぅぅ……っ」
ロラン様、好き……。
カラシナさん、好き……。
2人とも、俺をバカにしない……。
俺、約束した……。
た、戦うって、コムギと……。
「怖い……。が、骸骨、こ、怖い……」
俺、立ち上がった。
立つと目立つ。
骸骨、俺を見つけた……。
「く、くるな……あ、あっちいけ……っ、わ、わぁぁーっっ!!」
俺、夢中で、何もわからなかった。
骸骨、俺を斬ろうとした。
でも俺、骸骨、ひっぱたいた……。
骸骨、それだけで、砕けて動かなくなった……。
「あ……あ、で……?」
剣、届かない。
俺の手の方が、長い……。
「畑……」
俺の畑、防衛線の外にある……。
防衛線で戦う約束、ロラン様とした……。
でも俺、畑に戻った。
俺の畑、火を吐く芋虫に焼かれていた……。
「お、俺の、新しい、畑……! 許、さない!!」
怖くない。
俺、強い。俺、怒ってる!
俺、俺の畑、守る!!
芋虫の炎、飛び越えて、踏み潰した!
燃えている小麦を引き抜いて、他の小麦、守った!
「俺の畑、明日のパンになる……。コムギが引き継いだ、カラシナさんのパン、やらせない!!」
俺、強かった。
コムギが強くしてくれた。
コムギが俺に、勇気をくれた。
俺、この村に生まれて、よかった……。
今の俺、少しだけ、ロラン様みたいだ……!
「オオオオオオーーッッ!!!」
俺が雄叫びを上げると、骸骨も芋虫も、恐れ震え上がる。
巨人どころか、竜になったような気分だった。
俺はコムギがくれた青銅のクワを取り、近付く者をまとめて薙ぎ払った。
「俺、強い!! お前ら、なんにも、怖くない!!」
ありがとう、コムギ。
俺、勇気を手に入れた。
もう、何も怖くない!
・
・不敗のチャンプ
アルクエイビズのクソババァの塔から、襲撃を知らせるのろしが上がった。
ついに時は来た!!
村の男どもはあののろしか、その下の山火事に気付き次第、この防衛線に馳せ参じてくるだろう。
ただし、ワシらは兵隊ではない。
集合には時間がかかる。
ここで誰かが時間を稼がねばならなかった。
「が、骸骨の軍勢ぃ……っ?!」
「親父っ、あんたこうなることを知っていたのかよっ!?」
「ガハハハッ、何を驚いている息子よ! まあっ、そんなところよっ!!」
ワシらは最初からその防衛線におった。
なにせワシと息子は、大工が本職だからの。
村の防衛体制を見直すと言っておけば、こうして前線に村の若い衆が集まる。
ワシとロラン殿の計算通りじゃった!
「親父の発想じゃない、ロラン様のお考えだな?」
「違うわいっ、ワシの考えじゃわいーっ!!」
ロラン殿は自ら語らぬが、名のある家の出に違いあるまい……。
彼はわざと防衛網に穴を空け、ワシとダン、ロラン殿で迎え撃つとした。
こんな発想ができるのは、大貴族か、王族か、戦いに明け暮れた歴戦の戦士だけだ。
「く、くるぜ、親父……っ!?」
「ガハハハハッ、あんな無筋肉者どもなど、このワシの敵ではないわいっ!! お前たちは持ち場につけぃっ!!」
「た、頼むぜ、元チャンプ!!」
「元だぁ? ワーハッハッハッ、ワシは、チャンプの座をっ、明け渡したことなど一度もないわーっっ!!」
ワシは防衛網の穴を我が身で塞いだ。
迫り来る骸骨戦士の刃を、拳でへし折った!!
「け、剣が拳に負けたっっ?!!」
クククッ、心地よいわい……。
ああ、闘技場で戦いに明け暮れたあの頃を思い出すわい……。
「砕けぃっっ!!」
スケルトンの鎧に正拳突きを叩き付けると、ドミノ倒しになって奥の骸骨どもも吹っ飛んだ!
現役時代の筋肉!
そして、ムギちゃんの筋肉愛がもたらしたこの鋼鉄の筋肉!!
「ガハハハハッ、アイアンゴーレムだろうとドラゴンだろうと、かかってくるがよいっっ!!」
息子たちが間に合わせの防壁の上で石つぶてを投げた。
弓も用意させておったが、骨どもには弓よりも重い石が効く!
敵がよろけ、当たりどころのいい一発が、鎖骨や頸椎を砕くのを見た!
ワシらが仕掛けた罠にはまり、抜け出せなくなる怪物どもを見た!
「親父っ、なんかでかいのがくるぞ!?」
「おおっ、あれが件の悪魔か! ワシの孫の風車を壊した張本人じゃなっ?!」
「気を付けろ、火を吹く芋虫もきた!」
「ぬぅぅっ、援軍の到着まで切り抜けるしかあるまい! 芋虫は任せるっ、ワシは骨とあの悪魔を迎え撃つ!」
ダンとロラン殿の到着を待つしかあるまい。
幸い、敵は負傷している者も多い。
ソフィーちゃんと、アルクエイビスのクソババァが死地でがんばっておるのに、村長であるワシがこの防衛線を守らぬでどうする!
「見るからに体脂肪率高めの貴様のような悪魔にっ、このワシが負けるかホワチャァァーッッ!!」
ワシは骨どもを踏み台にして、見上げるほど巨大な、だがぽっちゃり体型の悪魔に、鋭い跳び蹴りをぶち込んだ!!
筋肉! 勝利!
明日へのレディーファイッじゃ!!