・幸運のアップルパイを作ろう - 配達は息抜き -
仕込みが一段落した。
ロマちゃんがたくさん作ってくれたパイ生地を、アイスシールド完備の地下室に運んで寝かせた。
煮林檎をお鍋から取り出して、その甘く濃い煮汁で幸運の林檎を煮た。
林檎の芯は、全部ロマちゃんが食べちゃった。
幸運の林檎の種だけ残しておけばよかったと、後から気付いたけどもう遅かった。
それからお鍋の様子を見ながら、朝に仕込んでおいたパンを焼いた。
バターロール、バゲット、食パンの順に香ばしく焼き上げて、全部をお店に並べ終えたらやっと一息がつけた。
ふと窓辺から空を見上げれば、太陽がもう昼過ぎの高さまで昇っていた。
「さて!」
『待て、君はやはり働き過ぎだ。少し休みなさい』
「うんっ、言いたいことはわかるよ! でもそろそろ焼かないと、パイ生地が台無しになっちゃうよ!」
『焼き終わったら焼き終わったで、君がおとなしく休むようには見えないのだが……?』
「直売所と酒場宿に届けるだけだよー!」
『困ったパン屋だ……。普通、配達は休養とは呼ばないのだがな……』
あたしは地下倉庫に駆け下りて、ロマちゃん手作りのパイ生地を抱えて厨房に戻った!
生地を短冊状に小さく切って、クロワッサンみたいに煮林檎を包んだ!
たくさんの人に食べてもらいたい。
そう思ってたから、小さいのをたくさん焼くことに決めていた。
赤林檎のアップルパイが64個。
幸運のアップルパイが8個。
丁寧に整形したそれをパン屋き窯に入れたら、やっと一段落だった。
「ふぅぅ……っ、楽しかったーっ! どんなふうに焼けるか楽しみだねっ!」
『そうだな。それがパン屋の醍醐味なのだろう』
「あれ、ところでロマちゃんは……?」
『いつものところだろう』
あたしは窯の前で攻略本さんとお喋りをして過ごした。
居間で落ち着くのもいいけど、アップルパイが気になってしょうがなかった!
「攻略本さんっ、なんだかすごくいい匂いになってきてない!?」
『バターの香りが濃厚だ。煮林檎の甘い香りも混じっているな』
バターをたっぷり使ったパイ生地は、すぐに甘く香ばしい香りをたて始めた。
安心したあたしは攻略本さんを抱えてお店の方に出て、窓辺のロマちゃんの側に寄った。
ロマちゃんはイスの上で、暖かい秋の日差しを浴びて眠っている。
あたしはロマちゃんをイスから抱き上げて、膝の上に乗せてそこに座った。
日光で暖まったロマちゃんは凄く気持ちがよかった。
『少し休みなさい』
「ん……そうしてみる」
座ったら急に疲れてきたかもしれない……。
あたしはロマちゃんをお腹と手で包んで、ちょっとだけ休んだ。