・幸運のアップルパイを作ろう - パイ生地を作ろう 1/2 -
そうと決まったらパイ生地から始めよう!
生地の作り方をロマちゃんに覚えてもらおう!
あたしはロマちゃんの前で、木製の大きなボウルの中に小麦粉とバターを入れて見せた。
「パイ生地はね、凄く作るのが難しいの。でもロマちゃんならきっとできるからやってみてね!」
あたしの予想では、ロマちゃんはあたしよりも美味しいパイ生地を作れる。
ロマちゃんのひんやりとした身体は、パイ生地作りにもってこいだ。
「パイ生地はね、温めちゃいけないの。バターが人肌で融けちゃうと、美味しく焼けないんだって」
ロマちゃんは打ち台から隣のあたしを見上げている。
そんなロマちゃんがぽよんと縦に延びてうなづいた。
ついかわいくなっちゃって、あたしは素直なロマちゃんに微笑んでいた。
「じゃーんっ、これがドレッジだよ! これがないと大変なんだから!」
ドレッジという半月型のしゃもじで、斬るように小麦粉とバターを混ぜ合わせた。
バターは事前にしっかり冷やしておいた物だから、だいぶ手応えが硬くて力がいた。
倉庫のアイスシールドの隣に置きすぎたみたいだった。
「あとね、延ばすのはいいけど捏ねちゃダメなんだよ? 捏ねちゃうとサクサクにならないの」
ざっくりとバターと小麦粉を混ぜ終えると、生地をボウルから打ち台に移した。
今度は綿棒で長方形に整形して……。
伸ばして……。
三つ折りにたたんだ!
「こうやってね、折りたたんだら角度を変えて、また長方形に延ばすの。それからまた折りたたむんだよ」
ロマちゃんがぐにゃりと歪んで首を傾げた。
……首、ないけど。
『なるほど、打ち粉が生地と生地の隙間に入って、それがパイの層を作るということか』
「……へ? あっ、これってそういうことだったんだっ!?」
あたしはロマちゃんと一緒に棚の攻略本さんに注目して納得した。
……あれ?
でもロマちゃんって、攻略本さんの言葉が聞こえるの……?
『理解せずに作っていたのか……? 大らかだな、君は……』
「あはは……。あたし、ただお母さんに教わった通りにやってるだけだから……」
また生地を折りたたんで、綿棒で延ばした。
「ロマちゃん、これと同じことをあと2回やってほしいんだけど、できそうかな?」
お願いしてみると、すぐにロマちゃんが生地の上に乗っかった。
生地はあたしの体温で少し温まっている。
だけど涼しい日のロマちゃんなら、ひんやりしているからバターが融けるなんてことない。
「お、おぉーっ!?」
ロマちゃんのスライムボディが海みたいにうねった。
そうすると透ける桃色の身体の下で、綿棒を使ったように生地が均等に延びていった。
『これほどまでに器用なスライムは、ロマの他におらぬかもしれんな……』
「わーっ、ロマちゃんすごーいっ!! ロマちゃんはパン屋さんになるために生まれたスライムだよっ!」
ううん、それだけじゃなかった。
十分に延ばすと、ロマちゃんは身体を左右に反復させた。
『な、なんという神業……。いや、スライム技、と言うべきか……?』
そのちょっとした動作で、ロマちゃんはパイ生地を三つ折りにしてくれた!
さらには生地から降りて、打ち粉でパイ生地にサラサラにした!
「すごい……ロマちゃんって、あたしより賢いのかも……」
『魔法のようにどんどんと仕上がってゆくな……。なんというスライムだ……』
ハッと我に返れば、パイ生地の仕込みが完成していた。
綺麗に仕上がったパイ生地の隣で、楽しそうにロマちゃんがぷるぷると左右に身を揺すっていた。
「えっと……じゃあ、また小麦粉とバターを混ぜるから、あと5枚分お願いできる……?」
お願いすると、ロマちゃんがドレッジを身体の中に飲み込んだ。
『自分でやるからボウルに小麦粉とバターを入れろと、そう言っているようだ』
「ええっ、さすがにそれは無理じゃ……?」
『やれるそうだ。やらせてみたらどうだ?』
「う、嘘……」
やる気は嬉しいけど、ボウルをひっくり返さないか心配だった……。
でもどうしても自分でやりたいって、ロマちゃんがあたしに目で訴えている。
あ、ダメ……。
そんな目で見られたらあたし逆らえない……。




