☆鉄壁のチョコメロンパンを焼こう - 筋肉が爆発した日 -
「おい、行くぞ」
「あれ、ホリン……? なんでホリンがここにいるの……?」
気付くとあたしは木の幹にもたれて眠っていた。
ホリンが目の前にいて、呆れ顔であたしに手を差し伸べていた。
「寝ぼけてんじゃねーよ……。ほら、後はお前だけだっての」
「あ、そっか……。これからゲルタさんのところに行くんだったね……」
ホリンの手を借りて身を起こす。
ホリンの大きな台車の上に、ロマちゃんとフィーちゃんが乗っているのが見えた。
「お前も乗れ」
「え、いいよ。さすがに重いでしょ……」
「乗ってくれた方が俺が楽しいから乗れよ」
「あはは、だったら乗る! 楽しそうだし!」
あたしはホリンの台車に乗った。
メロンパンが荷崩れしないように荷物を支えられるから、これはこれでよかった。
あたしたちは田舎道に出た。
「おにいちゃん、村長さんみたいなのです」
「どこがだよ?」
「確かにそうかも。村長さんも、人を台車に乗せて運ぶのが好きだもんねーっ」
「それに、凄い力なのです!」
「へへへ、やっぱそうか? 最近、すっげータフになってきた気がするんだよなっ!」
フィーちゃんが褒めるとホリンの足取りが強くなった。
確かにもう昔のホリンじゃなかった。
今のホリンは強くて、何か起きても切り抜けてくれそうなたくましさがある。
あたしとロランさんがホリンを育てた。
ホリン自身のがんばりもあるけど、そう言っちゃってもいいはずだよね。
「ほら、見えてきたぜ」
「はわっ!? お、お祭りみたいなことになってるですよーっ!?」
「わぁぁ……本当に村の全員、集めちゃったんだ……」
「後でうちの爺ちゃんが迷惑かけたって、謝んねーとな……」
「ごめん、あたしがみんな集めてってお願いしたの」
「お前は全く悪くねーよ。爺ちゃんのやり方が強引なんだよ」
向こうのみんなもあたしたちに気付いて、手を振ってくれた。
ゲルタさんの宿に全員は入り切らない。
だから店の軒先にテーブルやイスが持ち込まれていた。
なんか、凄い緊張してきた……。
こんなに期待されているのに、もしみんなの口に合わなかったらたらどうしよう……。
「心配すんなって。お前のパンが不味いわけないだろ?」
「美味しかったのですよっ、しゅごく美味しかったのです!」
あたしたちはパンと一緒に、村のみんなが待つお祭り会場に運び込まれた。
村のみんなはあたしを囲むように迎えてくれた。
みんなはあたしのパンを食べるためにこうして集まってくれた。
その事実だけでも感激だった。
・
チョコメロンパンは大好評だった。
「おいしい! よくわかんない変な匂いだけど、これおいしいよ、コムギ!」
甘い物が大好きな村の子供たちは当然として。
「おお~、確かに不思議な香りだけどよ、酒に合うなこりゃ!」
お酒の入ったおじさんおばさんも、大きな口を開けてチョコメロンパンを食べてくれた。
人を集めるためにゲルタさんがお酒を出してくれたみたい。
「お仕事中すみません……。どうですか、ダンさん……?」
「きて、よかった……」
「ダンさんの小麦粉を使ったんですよっ」
「本当、か? それは、嬉しい……。そう、か……」
巨人になったはずのダンさんが元の大きさになっていて最初は驚いた。
効果が切れちゃったのかなと最初は思った。
でも違った。
フィーちゃんがミニママイズの魔法をかけてくれたからだった。
みんなと一緒に集まれるようにしてあげたんだって。
「うちの爺ちゃんがすんません、アルクエイビズ様」
「ヒェヒェヒェ……まったく、困ったジジィさねぇ……」
アルクエイビス様はフィーちゃんと仲良く並んで、いつになくニコニコしていた。
以前はジャムをくれたこともあった。
甘いのが大好きなお婆ちゃんなんだって、その姿だけでわかる。
「サマンサ産のチョコレートですか。知り合いがこれを使ったクッキーが好物でしてね……」
「あっ、次はクッキーにするのもいいですねっ!」
ロランさんはどこか懐かしそうに、チョコメロンパンを食べてくれた。
あたしにもチョコクッキーが好きな知り合いがいる。
ロランさんにとって、チョコレートの味は故郷の味なんだろう。
「これ、ロマちゃんが捏ねてくれたんですよ!」
「へぇ、そうなのかい。よくやったね、ロマネコンティ」
ゲルタさんには、ロマちゃんの活躍を伝えた。
ロマちゃんを胸に抱いて主張すると、ロマちゃんはゲルタさんに頭を撫でてもらえた。
ロマちゃん、ゲルタさんにメロメロになっていた……。
ちょっと嫉妬した……。
「あれ? ロマネコロネ、じゃなかったですか?」
「あっはっはっはっ、そりゃいいねぇ! なら今日からアンタの名前は、ロマネコロネだ!」
「えーーっ、違ったんですかーっ!?」
「これからもコムギを助けてやんな、ロマネコロネ」
ロマちゃんを返してって言われなくてホッとした。
ロマちゃんはキリッとしていた。
「爺ちゃん……? 食わねーのかよ?」
「うむ、孫よ。今筋肉と相談しておってな……」
「いや意味わかんねーよ、爺ちゃん」
「孫よ、お前は筋肉の言葉を聞いたことがないのか……?」
「ねーよ……っ」
ヨブ村長さんは、なぜか上半身裸になっていた。
変なポーズを取りながら、筋肉と語っているそうだった。
「ワシの身体は、これ以上の筋肉を受け入れられるだろうか……?」
「いらねーなら俺が貰うぜ」
「誰がやると言ったバカ孫がっ!! ムギちゃんがワシのために作ったパンを、ワシが食わぬわけがないだろうがーっ!!」
「だったらさっさと食えよっ!?」
「言われるまでもないわいっ!!」
村長さんもチョコメロンパンを食べてくれた。
あたしもホリンも、村長さんがどうなってしまうか気になって注目した。
「うっっ?!!」
「じ、爺ちゃんっ、大丈夫かっ!?」
「わぁぁーっ、ご、ごめんなさいっ!」
「い、いかんっ、き、筋肉がっ、筋肉が爆発してしまうぅぅーっっ!! ば、爆発するぅぅーっっ!!」
ただでさえ凄い村長さんの筋肉が……本当に爆発した……。
ドンッと筋肉が膨らんで、それがズボンを内側から引き裂いてしまった。
「どういう体質してたらそういうことになんだよーっ?!!」
「ガハハハハハッッ、完全体じゃぁぁーっっ、ワシは今っ、現役時代を取り戻したぞぉーっっ!!」
「どんな現役時代だってのっ!!」
村長さんはすぐに元通りの大きさになった。
折り曲げた右腕だけを巨大化させたり慣れたものだった。
元々が凄かったから、それだけパンの効果も大きく出ていたってこと、なの……?
「どうじゃ、ムギちゃんっ、ワシの筋肉はーっ!?」
「えっと……あの、その……す、凄い、ですね……」
身体の一部だけ超ムキムキにする姿は、凄い、不気味だった……。
2023/03/07
ホリンの挿絵が抜けていました!
描いてくれたしーさんごめんなさい!