・鉄壁のチョコメロンパンを焼こう - つまみ食い -
『辛気臭い話をしたな。さあ、運命を変えてくれ、コムギ』
「うん!」
敵は村の東からくる。
でも攻略本さんが言うには、少数の敵が村の西側で待ち伏せしていたそうだ。
だからみんな逃げれなかったって、悔しそうに言っていた。
『メロンパンにチョコレートを入れるというのはどうだ?』
「あっ、やっぱり攻略本さんもそう思う?」
『山のように買ってきたのだ、使わなければ損だ』
外側のクッキー生地に入れてみよう。
メロンパン内側のパン生地は昨晩仕込んだ物があるので、あたしは外側のクッキー生地の準備に入った。
小麦粉、バター、卵。それをロマちゃんと手分けして捏ねた。
お鍋でチョコレートを湯煎すると、甘い匂いがお店中に広がった。
その匂いに惹かれて次々とお客さんがやってくるのは、ちょっと予定外だった。
「へぇ、ヨブが言ってたのはこれかい。チョコレートなんて久しぶりだねぇ……」
「えっ、もう村長さんから聞いたんですか?」
ゲルタさんもきた。
チョコレートの欠片をあげると、迷わずに口に運んで懐かしんだ。
「うちの酒場宿を祭りに使わせろって、いきなり乗り込んできたのさ……朝っぱらからね」
「ああ……すみません……」
「何を作るんだい?」
「チョコレートを混ぜたメロンパンです! 絶対、美味しいと思うんです!」
「なんだって、そりゃ大変だっ! あたいもヨブのやつを手伝ってやらなきゃねぇ……!」
「そ、そうですか……?」
赤毛も相まって、燃えるように美しくなったゲルタさんは優雅な足取りでお店を出て行った。
うちのパンをいっぱい台車に乗せて。
「あっ……ロマちゃん……?」
厨房に戻ると、ロマちゃんの色が変だった。
ぷるぷるとした桃色のロマちゃんがチョコレート色になっていた。
「ロマちゃん……。チョコつまみ食い、したでしょ……?」
ロマちゃんはごまかすようにそっぽを向いた。
別につまみ食いくらいしたっていいのに。
「もっと食べたい?」
ぷるんと跳ねて肯定するロマちゃんに、チョコレートの欠片をあげて作業を再開した。
ロマちゃんからは、明らかにチョコレートのいい匂いがかぐわしく立ちこめていた。
・
鉄壁のチョコメロンパンを焼いた。
2つあった鉄壁の実を生地に盛り込んだ物だ。
たくさん作ったから1つあたりの効果は落ちているだろうけど、味は断然今回の方が自信があった!
でも昼過ぎまでに全部焼かなきゃいけない。
それに量が量だから、結構慌ただしくお仕事をすることになった。
「あ、フィーちゃん?」
「えへへ……きちゃいました……」
パンのあら熱が抜けるのを待っていると、フィーちゃんがお店にきた。
「わかった、村長さんから聞いたんでしょ!」
「はいです、お師匠様がまたお休みをくれたのですよ。村長さん、お師匠様もこいって、しつこかったのです……」
「強引だもんね、村長さん……」
フィーちゃんもきたので、あたしは熱々のチョコメロンパンを手に取った。
普通にまだまだ熱くて床に落としかけた。
ミトンを付け直して、チョコメロンパンを3等分にした。
「試食してみる?」
「い、いいのですかーっ!?」
「だって感想聞きたいし。でも熱いから気を付けてね……?」
「はいです! お、おわっちぃーっっ?!」
ロマちゃんもすり寄ってきた。
ロマちゃんにもチョコメロンパンをあげると、熱くないのかロマちゃんの大きな中に飲み込まれていった。
「はわっ?! ロマちゃんの色がなんか変なのですよ、おねえちゃんっっ?!」
「さっきね、この子チョコのつまみ食いしたんだよ。そしたらこんな色になっちゃったの」
「ロマちゃんは食いしん坊なのですよ。でもいっぱい、おねえちゃんがいない間、助けてくれたのです」
そう言いながらフィーちゃんが熱々のチョコメロンパンをついばんだ。
よっぽど美味しかったのか、すぐにいい笑顔になった!
「お、おねえちゃん……っ」
「どうかな……?」
「お嫁さんになって下さい!!」
「あははっ、喜んで!」
熱いのにどんどん頬ばるフィーちゃんにつられて、あたしも食べてみた。
チョコ風味のクッキー生地が舌にとろけて、ふわふわのパン生地が受け止めてくれた。
チョコと小麦の香りが混ざると、どうしてこんなに美味しい匂いになるんだろう。
あたしも一心不乱に全部食べてしまった。
「も、もう1つだけ、いいよね……?」
「いいっ、いいと思うです! ロマちゃんもそう言ってるです!」
ロマちゃんから香るチョコのいい匂いに負けて、あたしたちは2つ目のチョコメロンパンに手を付けていた。
『村人の身の守りを強化するという趣旨を、忘れぬようにな……?』
ごめん、攻略本さん……。
すっかり忘れてました……。
チョコメロンパンの仕上がりは上々だった。