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・黄金の小麦畑 - ロランさんにとってのホリン -

・田舎のパン屋


 その日は朝からホリンと一緒に買い物をした!

 サマンサは服がすっごく安いから、村の直売所に置こうって決めて12着も買ってしまった!


 もちろんチョコも板ごとがっつり!

 お砂糖も信じれないくらい安いから、10kgの大袋ごと確保しちゃった!

 もちろん、あのカチカチになる小麦粉も!


「あのよー……これ、全部持って飛ぶつもりなのか……?」

「無理?」


「わかんねーけど……失敗したら海にドボンッてこと、忘れてねーかお前……」

「大丈夫だよ。最近のホリン凄いもん!」


「落っこちても文句言うなよ……?」

「大丈夫! それじゃ、お世話になりました、イグナシオさん!」


 魔女さんが言っていた。

 テレポートはできるだけ高いところから使えって。


 だからあたしたちは大荷物を抱えて、サマンサで一番高いところである、あの防壁を訪ねた。

 事情を伝えると、イグナシオ将軍さんが防壁の上に連れてきてくれた。


「このたびはご迷惑をおかけした。ああところで、陛下に何か伝言があるようなら私から伝えておくが?」

「殿下、って昨日まで呼んでなかったすか?」


「……あの後、陛下とよく話し合った。陛下は少し変わられたようだ」

「王様ってさ、嫌な仕事だよなー……。兄貴と比較されたりよー?」


「申し訳ない……。して、伝言は?」

「そうっすね……。ベル様には、『王様が嫌になったらうちの村にこいよ!』って伝えてくれよ」


 だから、それはまずいんだってば……。


「コムギ様からは?」

「また遊びにくるとお伝え下さい! あたしたちの方からきますからっ!」


「必ず伝えよう。……しかしなるほど。宮廷の雌豚どもより、コムギ殿の方が遙かに好ましい……」

「……はい?」


「コムギ殿、またいつでもサマンサにお越し下さい。陛下が貴女をお待ちしております」


 雌、豚……?

 サマンサの宮廷って、豚さんを飼ってるの……?

 すごーい……。


「じゃ、行くぞ。落っこちても文句言うなよ」

「うんっ、安全運転でお願い」


「テレポートにんなもんねーよっ! それじゃ!」


 青白い光があたしたちを包み込んだ。

 当然だろうけど、将軍さんはそれに驚いて声を上げた。


 でもそれ以上やり取りする間はなかった。

 あたしたちは空高く高く、いつもよりもずっとずっと高く舞い上がった。


 そして天空で停止すると、どこまでもどこまでも続く海の彼方へと翔けた!


「わぁぁぁーっっ、速い速いっ、すっごい速いっ!!」

「はしゃぐなっ、暴れるなってのっ!」


 今回は荷物がいっぱいだから、ホリンとベッタリとはいかなかった。

 でもその分だけ自由で、疾走感が爽快だった。


 海を渡る流星となったあたしたちは、いつまでも海の上を飛び続けた。


 水面が輝く海に船を見つけたり、遠い島を見つけたり、あたしたちの暮らす北側の陸地を見つけた。


 海って大きい。

 世界って広すぎる。


 陸は見えてきたけれど、到着はまだまだ先みたいだった。


「怖……っ、この魔法、怖……っ」

「ふふっ、でも楽しいよっ! 今のあたしたちどんな鳥よりも速く飛んでるよっ!」


 ゆっくりだけれど、陸地は段々とあたしたちに迫る速度を上げていた。


 やがてモクレンの港が見えたかなって思ったら、あたしたちはモクレンを右手に横切った。

 ブラッカの町の真上を飛んで、あたしたちのアッシュヒルへと流星となって落っこちた!


 着陸地点は、あたしのパン屋の前だった!


「ふぅぅ……よかった、なんとか無事にたどり着けたぜ……」

「お疲れ、ホリン! 30分くらいは飛んでたかな……楽しかったね!」


「んな余裕ねーよ……。俺、アルクエイビス様にもうちょっと修行付けてもらうわ……。この魔法、やべぇ……」


 ホリンはぐったりと肩を落としていた。

 それになんだか少しフラフラしていた。


 がんばったホリンをあたしが支えてあげると、お店からフィーちゃんとロランさん、それにロマちゃんがすっごい速さで飛んできた!


 あたしは膝を突いて、ロマちゃんを胸で受け止めた。

 すぐにフィーちゃんもそこに加わることになった。


「おねえちゃん、お帰りなさいなのですっ!」

「ただいま! 店番ありがとう! おみやげ、たくさん買ってきたよ!」


 フィーちゃんにシルクのシャツとスカートをあげた。

 これから秋に入るけど、もっと女の子らしいさせたら絶対かわいいと思ったから!


「は、はわぁぁーっ、こ、こんないいもの、貰えないのでしゅよーっ!?」

「チョコレートもあるよ! 一緒にお茶にしよ!」


 そんなあたしたちを、ロランさんはホリンと一緒に静かに見守っていた。

 あたしはロランさんにもお礼を言って、お茶へとご招待した。


「サマンサの旅はどうでしたか?」

「それがさ、ロベールって王様と偶然出会って、とにかくその後が大変だったんだよ……」


 本当にロランさんは王様だったのかもしれない。

 ベルさんの名前が出てくると、ロランさんは言葉を失った。


 動揺した後、どこか寂しそうな目で、ずっとホリンのことを見つめていた。

 お茶の間もホリンばかりを見ていた。


 ロランさんにとって、ホリンは2度と会うことのない弟の代わりなのかもしれない。


 会わせたら大変なことになりそうだ。

 だけどそんなロランさんを見ていたら、ベルさんを連れてきてあげたくなってしまった。


 とても楽しいお茶会だった。

 でもホリンが風車の仕事に戻ると言い出すと、残念だけどそこでお開きになった。


 あたしたちは旅行を終え、アッシュヒルでの日常に戻った。


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