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・深き穴底より - 隠された物語 -

 宿に戻ると、あたしたちはチョコレートを晩ご飯にした。

 もう夜も遅かったから仕方なかった。


 仕方がないから美味しくいっぱいチョコレートを食べられた。


「悪い、先寝るわ……」

「えー、寝ちゃうの……っ!?」


「お前を探して駆けずり回って、こっちはこっちで大変だったんだよ……」

「あ、そっか……。心配かけてごめんね……」


「マジで無事でよかった……。もう心配させんじゃねーぞ……」

「今回はあたしのせいじゃないのに……」


 こっちはドキドキの夜を期待していたのに、ホリンは先に寝てしまった。

 しょうがないからあたしは物静かな友人、攻略本さんをバッグから取り出した。


『私も心配したぞ』

「ごめん……。でもあたしの話、聞いてくれる?」


『アッテール鉱山での話だな、喜んで』

「うん。それにベルさんのことを、攻略本さんにもっと知ってほしいの」


 あたしは攻略本さんを抱いてソファーに腰掛けた。

 そこで鉱山で起きたことを一部始終、攻略本さんに語った。


『ロラン殿と、サマンサ王ロベールが兄弟とは知らなかった……』

「あ、やっぱり。知ってたら何か助言してくれてたもんね……?」


『攻略本のどこにも書かれていないことだ。いや、私が知らなかったということは……』

「ということは?」


『本編である私の人生の中で、語られることのなかった『隠し設定』ということになるか……?』


 攻略本さんは強い興味を持ってくれた。

 あたしは難しいことが苦手だから、攻略本さんにこのことを知ってもらいたかった。


『言われてみれば似ている……。そうか、失踪した兄王とは、ロラン殿のことだったのか……』

「それでね、攻略本さん、あたし思ったの」


『聞こう』

「えっと、上手く言えないんだけど、あのね……」


 たどたどしい言葉で、あたしは攻略本さんに意思を伝えた。


 物語には、読者には明かされない秘密がある。

 ロランさんとロベールさんの関係もそのうちの一つ。


 この世界は物語の一部。

 物語は、世界のごく一部しか読者に語ってはくれない。


「だからねっ、物語の世界だからって気にすることないの! 読者はこの世界を外からのぞいているだけ! それだけだよ!」

『それは面白い考え方だな』


「あたしたちの世界は最初からここにあって、ただ外からのぞかれているだけ! 主導権はここで生きているあたしたちにある!」

「うるせーよっ、起きちまっただろっ?!」


「あ、おはよ、ホリン」


 ちょっと声が大きかったみたい。

 ホリンがベッドから飛び起きてこっちにきた。


 ドキドキの夜を期待していたあたしには、怒られちゃったけどこれは嬉しい流れだった。


『最後の宝、バリアリングは聖堂にあったはずだ。あの聖堂は深夜も開いている。ホリンを誘って出かけてみたらどうだろうか?』


「へーー、夜もやってるんだー」

「おい、人の話を聞けよ……」

『沢山のろうそくが灯されて、なかなかに幻想的だった』


 あ、それ、行ってみたい!

 こっちの精霊様にもお祈りをしておかないと!


「ホリン、起きちゃったのなら今から聖堂に宝探しに行かない?」

「は、今からか……?」


「夜になるとろうそくがいっぱい灯されて綺麗なんだって」

「……はぁ、しょうがねぇな。起きちまったし、付き合うぜ」


 話が決まった。

 あたしは元の温かい服に着替えて、ホリンと一緒に夜の町に出た。


 攻略本さんを頼りに聖堂までやってくると、本当に入り口が開いていた。

 参列者が出入りしていた。


 こんな遅い時間なのに中には人がたくさん集まっている。


「わぁぁ、綺麗……。ちょっとお祈りしていこ?」

「は? なんで俺が精霊のミサなんかに参加しなきゃいけないんだよっ!?」


「だって、人目がある場所で宝を取り出すと、ホリン怒るでしょ?」

「おう、それだけは絶対止めろ……」


 座席に腰掛けて、ミサが終わるまでお祈りをした。

 ろうそくいっぱいの祭壇は攻略本さんが言うとおり、幻想的で凄く綺麗だった!



 ・



 ミサが終わった。

 人がいなくなったのを見計らって、あたしはぐったり顔のホリンの前で白い宝箱を開けた。


 『B.バリアリング』が入っていた。


 あの力を使ってみると――


――――――――――――――――

 効果1:防御+10%

 効果2:1日1度だけ致命傷から対象を守る

――――――――――――――――


 こんな表記が目に入ったので、ホリンに教えてあげた。


「やっぱりこれ、お前が持てよ」

「ううん、約束通りこれはホリンが身に付けて」


「なんでだよ、お前の方が弱いだろ?」

「でもこういうのは、ホリンが持ってた方が多くの人を助けられるでしょ? あたしには竜の鱗があるから大丈夫」


「俺はお前のことが心配なんだっ!」

「それはあたしもそうだよ。とにかく、ホリンが受け取らないならここに捨ててくんだから!」


「なっ、何ぃっ?! もったいないだろ、そんなのっ!?」


 あたしがバリアリングを床に落とそうとすると、ホリンがそれを下からすくい取った。

 あんなに欲しがっていたのに、ホリンは押し付けられて不満そうだった。


 だけどこれはホリンが持つべきだと思う。


 だってもし、ホリンが勇者様だとしたら……。

 ホリンは死なせちゃいけない。


 ホリンさえ生き延びれば、サマンサの人たちも未来の世界で救われる。


「じゃあ貰う。この力を使って俺、村のみんなを守るよ。もちろんお前もな」

「うん。一緒にアッシュヒルを守ろうねっ」


 あたしたちは聖堂を出て、サマンサの夜道を一緒に歩いた。

 潮風が香って、白い建物が月光に浮かび上がっていて、見ているだけで不思議な町だった。


 あたしたちはこうして、サマンサでの宝探しを終えた。

 明日はおみやげをいっぱい買って、アッシュヒルに帰ろう。


 特にあのチョコレートってお菓子、チョコクッキーにちょっと使っちゃったし、いっぱい食べちゃったし! たくさん買い足しておかなきゃ!


「おい……今度は俺の方が眠れないんだが……?」

「ごめん……」


 ホリンと一緒の夜は、ドキドキだった。


「今度はあたしの方が限界……。おやすみ……」

「はぁ……おやすみ。このバリアリング、大切にするからよ。ありがとな」


「へへへ……ホリンには、生き残って、ほしいから……」


 けれどあたしはまだ疲れていたみたい。

 もっとおしゃべりしたかったのに、すぐにぐっすりと眠ってしまっていた。


 目を閉じて、明日の朝また開いても、あたしの隣にはホリンがいる。


 アッテール廃鉱山の悪夢はもう終わったんだって、そう信じられた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 今回のお話も食欲をそそりますね……! おいしそうなパンがいっぱい(^^) 引き続き応援しています♪
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