・深き穴底より - またね、ベルさん -
その後、あたしが小屋で目を覚ますとベルさんは言った。
この国の人々の生活は、黄金なくしては成り立たない。
たとえ災厄が坑道の果てに眠っていようとも、金を失えば民は怒り狂う。
新しい王を望むようになり、それが内乱に発展する。
未来がわかっていようとも、採掘は止められないってベルさんは言った。
でも鉱山の兵隊を5倍に増員してくれるって。
毒ガス対策に大きく予算を割いて、坑夫さんたちを生き埋めにした裏切り者に、必ず罰を与えるって言った。
それだけでもだいぶ違う。
サマンサの未来が少し変わるかもしれない。
黄金。
それこそが人を狂わせる本当の災厄だと、今日あたしは思った。
「コムギ、予言者であるお前に聞きたい。我は兄とまた会えるのだろうか……?」
「会えますよ。未来を変えれば、必ず!」
「未来か……。よかろう、お前の予言通りにならぬようあがいてみせよう」
帰りはホリンのテレポートを頼ることになった。
またベルさんの暗殺者が現れるかもしれないし、テレポートで戻るべきだってホリンが主張した。
「お前たちは何者なのだ……?」
「ただの風車守と、パン屋っす」
「アッシュヒルか……。興味が湧いてきたな」
「いくっすよ、ベル様」
「ぬ、ぬぁっっ?!!」
あたしたちはアッテール廃鉱山から、ホリンの魔法で天高く舞い上がった。
流星となって空を翔けて、ほんの一瞬でサマンサの防壁前に着地することになった。
もう時刻は夜遅く、宝探しは明日にするしかない。
あたしたちはお城までベルさんを護衛して歩いた。
「明日も一緒に行くっすか?」
「いいですねっ、最後の宝も一緒に……!」
「すまん……そうしたいがそうもいかん。当時の産業大臣を尋問し、罰せられるべき容疑者を捕縛し、裁きを下さねばならん」
残念だった。
王様ってやっぱり凄く大変だった。
これでお別れかと、ちょっと寂しさを覚えながら夜道を歩いた。
「今度、俺の魔法でアッシュヒルにご招待するっすよ」
「えっ?!」
お城の前まで行くと、兵隊さんやお城の偉い人たちがベルさんを待っていた。
そんな別れ際、ホリンがとんでもないことを言い出した!
「いいのか、ホリン……ッ!?」
「ちょ、ちょっとホリンッ、それはまずいよ……っ?!」
「問題ねーよ」
「あるよっ!?」
「知られちゃいけないのはベル様にじゃない。黄金に目がくらんだこの国の連中だろ?」
「そうじゃなくて……っ、もーっ!」
そんな無責任な約束して、ロランさんに怒られても知らないんだから……。
会わせてあげたいけど、2人がまた出会ったらどうなるかわからなかった。
「今度迎えにくるっす。……また会おうな、ベル様!」
「またね、ベルさん!」
「お前たちと会えてよかった……。迎えを楽しみにしているぞ、ホリン」
「礼は剣の訓練でいいっすよ」
ベルさんはお城に帰り、あたしたちは宿へと引き返した。
たった1日だけの付き合いだったのに、別れが寂しかった。