・深き穴底より - お前はいいやつだ -
目を開けなくともわかった。
あたしたちは外に出られたんだって。
というか目を開けようにも開けていられなかった。
世界はオレンジ色の光でまともに見えなくて、あたしは両目を覆うしかない。
「コムギ!!」
「……ホリン?」
ホリンの声が聞こえて驚いた。
誰かが駆けてきて、あたしの両肩に触れる。
それはホリンの手と匂いだった。
「ご無事でしたか、ロベール殿下」
「その声は……イグナシオ将軍、か……?」
「はっ、ホリン殿に緊急事態と聞き、これから殿下の救助活動を行うところでした」
「お前が、なぜ我を助ける……?」
「私は軍属。考え方が異なろうとも、軍人が王を助けるのは当然のこと。ご無事でよかった……」
少し、目が慣れてきた。
ベルさんがあたしから離れて、あたしをホリンの胸へと押した。
目がまだくらんでたから抵抗はできなかった。
「よかった、また会えてよかった……。心配したんだぞ……」
「ごめんね……あたし、脱出の魔法を使えること、すっかり忘れてたの……」
ホリンが抱き締めてくれた。
あたしは抱擁に身を任せて、ホリンの胸でまぶしい夕日を覆った。
目を開いても、もうあのおぞましい世界はそこにない。
あたしはついに現実へと帰ってこれていた。
「おい……そんな便利な魔法があるなら先に言っておけよっ!? どんだけ人が心配したと思ってるんだよっ!」
「あたしと一緒じゃなきゃ、ホリンは村に帰れないもんね……」
「当たり前だろっ、爺ちゃんとロラ――グホォッッ?!!」
ここでロランさんの名前を出したらダメ!
あたしはホリンの胸を力いっぱい締め付けた。
「もうホリン、その話はしちゃダメって言われたでしょ?」
「あ、ああ……そういや、そうだったな……」
目がさらに慣れてきた。
辺りを見回すと、ここは大きな穴の入り口だった。
緑がなくて、ゴツゴツした岩ばかりの物寂しい場所だ。
ホリンはあたしを離してくれない。
なんだかちょっと、震えているような感じがした。
「でも、なんでここがわかったの……?」
「それがアイツ、あの襲撃者あっさりお前らの居場所を吐いたんだよ。アッテール廃鉱山の区画4に飛ばしたって」
「え、なんで……?」
「それは、計画の成功を確信していたのでしょうな。事実、救助にどれだけの日時がかかるのかもわからぬ絶望的な状況でした」
将軍さんがそう教えてくれた。
嫌な人かと思ったけど、ロランさんをそれだけ敬愛していただけだったのかもしれない。
「ふんっ……黄金に目がくらんだ愚かな王が、廃鉱山の底で生き埋めにされた坑夫と共に発見される。そういったシナリオだったのだろう」
「お待ち下さい、生き埋め、ですと……?」
「そうだ、やつらに裏切りの証拠を突き付けられた。我々は黄金に目がくらんでいたようだ」
なんだか頭がクラクラする……。
目の前が白黒のグニャグニャになって、あたしはホリンに寄りかかった。
「おい、大丈夫か? しっかりしろっ」
「なんか、疲れちゃった……」
気が抜けたら疲れが一気に全部きた。
ホリンがあたしを背中におぶってくれると、小さい頃を思い出した。
小さい頃はちょっとお兄さんのホリンにこうしてもらった。
お兄さんのホリンが大好きだった。
「迷惑をかけた。心から謝罪する」
「……聞こえてないみたいっすよ。どこか休める場所とかありませんか?」
「案内させよう。本当にすまん、ホリン……」
「悪いのはベル様じゃないっすよ」
「お前はいいやつだ」
「へへ、王様に言われるとなんか光栄っす」
意識が遠くなって、そこから先は覚えていない。
凄く疲れた……。
凄く安心した……。
ホリンとまた会えて、よかった……。