・深き穴底より - あんこく -
目を覚ますと、そこは暗闇の世界だった。
何が起こったのか全然わからなくて、あたしはパニックになった。
何か温かい物があたしの前にある。
手探りで確かめてみると、それは人の温かい感触だった。
「う、うう……な、なんだ、ここは……」
「ベルさんっ? ベルさんなのっ!?」
「何も見えん……我は、目をやられたのか……?」
「あたしも何も見えない、真っ暗! あ、そうだ!」
フレイムの魔法を使えばいいんだ!
あたしは手のひらの上に炎を生み出した!
「わ、わぁぁぁーっっ、何っここーーっっ?!!」
「お、大声を出すな……響く……っ」
あたしたちは石の中にいた。
しかもただの石じゃない。
黄色と青の入り交じる不気味な石壁が四方に広がっていた。
「だってだってっ、ここ、どこー……っ!? ホリンはどこっ!? なんであたしたち、こんなところにいるのーっ!?」
ホリンがいない。
もう二度と離れないように注意してたのに……。
また引き離されてしまった……。
「場所ならばわかるぞ。ここはアッテール金鉱山だ」
「え……っ?!」
「散発的にだが、坑道の奥から毒ガスや少数のモンスターが現れる危険な場所だ」
それって、攻略本に載っていた金鉱山……だよね?
っていうか、攻略本さんもホリンに預けっぱなしだ……!
「すまぬ、つまらぬ政争にお前を巻き込んでしまったようだ」
「えと、せいそう……ってなんですか?」
「国の運営をかけた下らぬ争いだ。すまん……」
「ううん、それは全然いいよ、これからどうにかすればいいことだもん!」
「お前は……お前は前向きだな……」
場所がわかったのなら、地上に目指せばいいとこだよね。
あたしはフレイムの魔法であちこちを照らして地形を確かめた。
「お前を必ずホリンのところに届けよう。その炎の魔法がなければ、我はここで狂い死んでいただろう」
「あの人たち、なんでこんなことするの……?」
「我に恨みがあるからだろう。わざわざこんな場所に送り付けるのだから、相当の恨みだな……」
ここは空洞になっていた。
梁が気味の悪い天井を支えていて、前と先に坑道が続いていた。
どっちに行けば出口なんだろう……。
ここ、なんだか凄く怖い……。
「大丈夫だ、必ずお前をホリンのところに届ける。共にここから脱出しよう」
「うん……お願いします……」
出口の方からは風が流れてくるというけれど、どっちからも風なんて感じない。
これって、あんまりよくないこと……?
「こちらに行こう」
「そっちが出口……?」
「すまん、わからんが行ってみるしかない」
「そっか……。うん、まあそれもそうだねっ、一緒に地上に戻ろっ」
あたしたちは出口に通じているかもわからない坑道を進んだ。
モンスターはともかく、毒ガスに遭遇したら死んじゃうかもしれない。
あたしは変な臭いはしないか鼻を鳴らしながら、ゴツゴツした岩の道を歩いた。
「泣くな……。責任を持って必ず彼のところに届ける」
「泣いてなんかないですよーっ!?」
「大声は出すな……。響く上に、モンスターを呼び出すかもしれん」
「あ、すみません……」
このまま出られずにここで死んじゃうかもしれない。
ホリンとは二度と会えないかもしれない。
目をつぶって、また開いても、目の前の不気味な世界は変わらなかった。
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