・隠しアイテム探そう! サマンサ編 - せいそう? -
「わぁ……っ!」
都市の防壁を抜けて、あたしたちは広大な外の世界に出た。
そこは見たことのない草木ばかりだった。
土もあたしたちの土地と比べて赤っぽく見える。
全体的に地面が乾燥していて、緑はところどころに限られていた。
「護衛なしで町の外に出るのは久しぶりだ」
「つーか、王様がふらふら防壁の外を出歩いて大丈夫なんすか? なんならここで――」
「一緒に行きたい」
「なら行きましょう! この先に『D.2800G』があるんですよっ!」
「お前は大声でそういうこと叫ぶなってのーっっ!!」
他の町では郊外に畑があったりするけど、この辺りは無人だった。
攻略本にある通り、綺麗に管理された街道が一本だけ通っている。
それが彼方までどこまでも続いていた。
「えっとね、一カ所だけこの先に白い土の地面があるみたい。宝物はそこだって」
「護衛は俺たちに任せろ。モンスターが現れても、ベル様と一緒に瞬殺してやるよ」
「うむ……スリルがあっていいな」
ベルさんが我先に歩き出した。
ベルさんって、前を歩かずにはいられない性格なのかも……。
ホリンは後ろに下がった。
あたしは前後を守られながら辺りと攻略本を見比べて歩いた。
「清々しい……城に帰るのが嫌になってきた……」
「だったら、あたしたちと一緒にアッシュヒルにきます?」
「おい、それじゃ俺らが王様を誘拐したことになるだろ……」
「あ、そっか」
王様って不自由だ。
何一つ苦労なく暮らしていると、そう思っていたけど違った。
なんかベルさん、疲れているように見えた。
「兄は無類の旅行好きだった。今もあの海の向こうのどこかで、元気にしているといいのだが……」
「ベルさんはお兄ちゃんっ子だったんですね~!」
「まあな……。すまん、関係のない話だった」
ベルさんが気持ち早足になった。
でもこのくらいなら付いていける。
あたしは辺りの地形を確かめながら、白い大地を探した。
「あれじゃねーか?」
「あっ、ホントだ! あそこだけ地面が白いね!」
しばらく歩くと、探していた場所が見つかった。
近付いてみると地面の一カ所が光っていた。
「ここ掘ってみて!」
「地面の中に埋まってるってことか?」
「うんっ、だってこの下から光が出てるもん!」
「我らには見えんな……。よし、剣で掘り返してみるとしよう」
「いや……俺の剣、雷神の剣っていう、レア武器なんだけど……?」
「なら手で掘るか?」
「王様の手を汚させるわけにはいかないっすよ……」
2人が剣を使って地面を掘り返すと、光が強くなった。
ガリッて、何か異物に剣がぶつかる音がした。
「金貨だな。古い時代の物だ」
「おおおおーっ、すっっげーーーっっ?!」
掘り返すと、ピカピカの金貨がザクザクと現れた!
長い間地面に埋もれていたはずなのに、ちっとも錆びていなかった!
「古い100G大金貨が27枚か。これだけあれば半年は遊んで暮らせるか?」
「庶民なら2,3年くらいは余裕だと思うっす。コムギ、ついでだから他に何か持ってやるよ」
金貨を綺麗にしてホリンが自分のバッグにしまった。
重い小麦粉を持たせるのも悪いし、町まで攻略本さんをホリンに預けることにした。
「宝が確実に見つかる宝探しか……。これはいいものだな」
「わかるっす。コムギとの旅は毎回楽しいっす」
「お前が羨ましい」
「いや大変っすよ。こいつ、何かと無防備な上に突っ走るから……」
「あたしなりに気を付けてるってばー! モクレンで悪い海賊に捕まってからは……さすがにホリンの言ってることわかったもん……」
ますますベルさんは羨ましそうにあたしとホリンを見た。
そんなに王様が嫌なら止めちゃえばいいのに。
国に尽くすのがつらいなら、いっそ逃げ出しちゃえばいいのに。
そんな本音を飲み込んで、あたしは2人と一緒に町へと引き返していった。
・
もうちょっとで町だ。
そう思った頃、変な人たちがこちらに駆けてきた。
なんでか剣を抜いたままで、なんでかその人たちはあたしたちを取り囲んだ。
ホリンとベルさんがあたしを守るように前後から背中を向けて、鋭い顔で剣を抜いた。
あれ……?
この人たちって、もしかして……
あたしたちを狙ってる!?
「ロベール王、不用意にサマンサを出たのが間違いだったな」
「狙いは我か?」
「そうだ、身に覚えがあるだろう」
「情報源はイグナシオ将軍といったところか?」
「ククク……さてな。貴様に恨みを持っている者は多いのだよ、王よ」
ど、どういうこと……?
なんで人間同士で戦うの……?
ベルさん、立派に王様をしているはずなのに……。
なんで、こんなことするの……?
「コムギ、お前は何もしなくていい。こいつらは俺たちで撃退する」
「国の恥を見せたな。だが、ホリンが背中にいるならばこの程度の相手に負けるまい」
「ちょ、ちょっと、その前に話し合いを――わ、わぁぁーっっ?!」
口元をマスクで覆った人たちが一斉に襲いかかってきた!
ベルさんとホリンは迷わずにそれを迎え撃った!
驚きはそれだけじゃなかった!
ベルさんとホリンの動きはそっくりだった!
「ほぅ……やはりやるようだな、ホリン」
「そっちこそやるっすね。……なんか、どっかで見たような動きっすけど」
悪い人たちもホリンの強さは予想外だったんだろう。
見るからにうろたえていた。
あ、あたしが育てました……!
正確には、あたしとロランさんが!
「なんなのだ、その田舎者はっ!?」
「俺を田舎者って言うなーっっ!」
悪い人たちはホリンとベルさんにバッサバッサやってつけられていった。
見たら最初は7人もいたのが、もう3人だけになっていた。
「ええい、かくなる上は……っ!」
ところがリーダーっぽい人が変なことを始めた。
不思議な赤い色の短槍を5つ、明後日の方向に投げ始めた。
そう、まるであたしたちを囲むように。
「何をしている……?」
「ロベール王っ、黄金に目がくらんだ愚者め……! 貴様には、アッテールの穴底がお似合いだ!」
ホリンとベルさんに勝てるはずないのに、その人は勝利を確信した。
ホリンも変だと思ったんだろう。
何かされる前にやっつけようと、ホリンが3人の襲撃者たちに飛び込んだ。
ホリンの雷神の剣がひらめいて、たった1人で3人をやっつけていた!
「見事だ。お前を我の懐刀にしたくなった」
「へへへ……意外とやれるもんっすね……」
「ホリン……強い! ホリンってそんなに強かったのっ!?」
「俺もビックリだ……。やっぱ俺が弱いんじゃなくて、爺ちゃんたちがおかしいんだよな……」
襲撃者さんたちは気絶していた。
誰も血を流していなくてホッとした。
「だが、1つ疑問がある。その剣術、いったい誰に――」
誰に教わったと、ベルさんは聞こうとした。
でもベルさんの言葉は聞こえなくなっていた。
急に辺りがグニャグニャに歪んで、あの赤い短槍が輝きだした!
地面に光の線が走って、それが星を描くと――
「あ……」
ホリンが何か叫んだ。
その叫びもあたしには聞こえなかった。
あたしはグニャグニャの何かに飲み込まれ、地面の下に落っこちた……!
上と下がわからなくなった。
押し流されるように体がグルグルと回転した。
あたしはどこまでもどこまでも、闇の世界を不思議な力に押し流されていった。