6、再就職先が決まった
つおい
「やけに気持ちよかったなこの布団……」
『おはよう、主人よ』
あの後、夜も更けてきたということで泊まりを勧められ、なし崩し的に止まることになってしまった……空き部屋を使わせてもらい、白虎を抱き枕代わりにもベットに寝転んだ……もふもふとした毛並みが素晴らしい、寝る時にはリラックスすることが重要と言われてるが、この抱き枕と布団が柔らかく、これ以上ないほどリラックスできてすぐに眠れた。
「さて、今日も就活頑張るぞ~、なんだ、なんか体が重……い」
「……あ、おはよう、コトハ~」
上半身を起こしながら意気込む、だが何だか体が重い、不思議に思って布団の中を覗き込むと、私の体の上に乗っかっているハルバート様の姿があった。
(………え、嘘でしょ……私……こんな小さい子に手を出したの???、全然覚えてねぇ………)
「どうしたのコトハ、ほら早く朝食を食べに行こうよ」
「へーー??、いや、ちょちょ、待ってくださいハルバート様!!!」
朝を一緒の布団で迎える異性達の99%は男女の仲だ、寝起きで平静さを欠いてるわたしはハルバート様とそういう事をしたのかと自分の胸に手を当てるが、記憶にない、どうしたものかと途方に暮れていると彼が私の手を握り、引っ張る、私の制止など聞かず、ずんずん前に進んでいくハルバート様。
「美味い美味い美味い」
「そうだろうそうだろう、うちのシェフの腕は国一番なんだ\\\\」
列車に乗っている炎の剣士の如く、飯を食う私、いや本当に美味いなこれ、顔を赤くしながらも誇らしげなハルバート様…………この可愛い男の子の顔を見ながら食べる絶品料理はさらに味が美味くなる、調和!!!。
『おい、小僧、あまり主人に馴れ馴れしくするなよ、一緒の布団で寝て良いのは主人の守護者たる我だけだ』
「何だお前は、コトハと俺がどう仲良くしようが俺の勝手だ!!」
『痛い目に遭わないとわからないようだな』
「ちょ、ちょっと喧嘩しないで二人共!」
料理に舌鼓を打っていると、白虎とハルバート様が身構え、今にも喧嘩しそうな一触即発な雰囲気、慌てて止めに入る私。
「いやだ~一緒にいる~」
「こらハルバート、我儘を言うんじゃない、コトハさんも困ってるじゃないか」
「あ、アハハハハ」
朝食を食べ終わった後、そろそろお暇しようとした時、ハルバート様が私の足にしがみついて離れなくなってしまった、あれだ、遊びに来た近所のお兄さんお姉さんを帰したくない子供みたいな感じだ、レオはレオで母親のような口調でハルバート様を嗜めるが、聞く耳を持たない彼。
「全く困ったものですね」
「あ、母上、俺ずっとコトハと一緒にいたい!!」
「ダメですよ、彼女は忙しいのです」
「うぅぅぅぅ~、こ、コトハは今何か仕事はしているのか??!!」
「いえ、今は就職先を探してるところですけど………」
「な、ならここで俺の専属メイドにならないか!!!、給料は弾むぞ!!!」
「は、ハルバート、はしたないことを言うもんじゃーーー」
「ーーーーよろしくお願いします!!!!!!」
「「……はい?」」
駄々をこねるハルバート、最後の悪あがきと言わんばかりに私に専属メイドならないかと三番目に強い鬼みたく誘ってくる、仕事先に飢えている私にとっては願っても無い話だったので即了承、レオとヴィクトリアはポカンと口を開けて疑問符を浮かべる。
「よろしくお願いします、セバスチャンさん」
「………」
メイドになると決めたわけだが、右も左もわからない、そこでレオにハルバートの専属執事兼護衛、私の先輩にあたるセバスチャンさんに色々教えてもらってくれと言われ、顔合わせをしている。
「最初に言っておく、ハルバート様はお前を気に入ってるようだが、私はお前を信用していない、少しでも怪しい行動をしたら即排除する、わかっているな?」
「よく肝に銘じておきます」
私が出した手を握るセバスチャンさん、私の手を握りながらもう片方の腕で腰の剣に手を添える、どうやらあまり信用されていないらしい、当たり前といえば当たり前だ、まだ王宮に入って数日の私を心の底から信用できる人間の方が少ないだろう。
「ーーー大体の仕事はこんな感じだ」
「わかりました」
「そして、そろそろハルバート様が学院に行く時間、私はハルバート様の護衛メインの身の回りの世話、お前はそのサポートだ」
ある程度仕事を教えてもらった後、学院へと移動する私達。
「中ってこうなってるんだ」
国の貴族や有望な若者を集め、様々な事を教えている学院……精緻に積み上げられた石達が校舎を形作る、学校というよりは古城と言われたほうがしっくり来る、そして目につくのは立派に聳え立つ時計塔、まるで絵画のような美しい風景に目を奪われる。
「これからよろしく頼むぞコトハ」
「ご命令とあらば、私は貴方の剣にも、盾にも、翼にもなって御覧いれましょう」
「うむ、くるしゅうない\\\」
私はハルバートに跪き、首を垂れる。
「やっと見つけた!!!」
「……ん?、貴女は……アイシャ?、一体何の用?」
「と、とりあえずこっちに来なさい!!!」
「え、ちょッッッ??!!!!」
いきなり現れたアイシャは私を何処かへと無理やり連れていく、咄嗟に私の式神をハルバートの影に潜ませる。
「#で?、魔力無しの平民の無能の雑用しかできないの私に一体何の御用なのかしら、サンセット家当主、アイシャ・サンセット殿?」
「ーーーッッッッ………ごめん!!!謝るからうちに戻ってきてお姉ちゃん!!!」
「………はぁ………」
………彼女の用事なんて大体予想がつくので、しかし万が一にも何か重要な事だったらやばいので、適当に皮肉を入れながらも一応聞いてあげる私、一瞬、私の皮肉に顔を真っ赤にするが、思い直したのか、一泊置くアイシャ。
そしてやはり、思った通り、そういう話だった、予想通りすぎて面白くもなんともない、ため息を吐いてしまう私。
「気付いたんだ、やっぱり家族が離れ離れになるのはおかしいいってーーー」
「ーーー断る」
「ーーーな、なんで??!!」
「………大方、サポートされてない自分の本当の実力がわかちゃったからそんなこと言ってるだろうけど、遅いよ、何もかも……大体家から追い出して、婚約者とって、挙げ句の果てには私にとっての命綱、この国で唯一の職すら取り上げて……どの面さげてそんなこと言えるの?恥知らずも良いとこだよ…………百歩譲って私を魔力無しだとか言って家から追い出しただけなら戻ってもよかったけど………私を救ってくれた人達の死を喜んでいたことだけは許せない」
「ーーーッッッッッッ」
「それじゃあ失礼するわ、鬼畜のアイシャさん」
今更になって戻って来い言ってくるアイシャ、言う事を聞くわけがないだろうが、お前らのような鬼畜がどうなろうがもう知ったことではないのだから。
つおい