22、意外とあり
つおい
「ーーー今だッッッッ!!!」
「ーーなんの!!」
………王宮の中庭でハルバート様とアレシア様は木刀を打ち合う、お互いの刀は何度も交わり、その度に木製打楽器のような聞いていて気持ちの良い音が鳴り響く。
ハルバート様は男の有利を生かして力強くくるのに対して、アレシア様は無駄に振るわず、コンパクトに動かして対応している。
二人は目紛しく攻守を変えていき、ハルバート様が攻めていたと思ったら次の瞬間にはアレシア様が攻め込み、お互いに相手の動きを熟知して一手も二手も先読みし自分の攻撃や防御を滑り込ませる。
二人の決闘は私から見るとまるで演舞のよう、それこそ永遠に続いて欲しかったが、不意に今までよりは甲高い音が鳴り響き、それがこの決闘のピリオドとなった。
……アレシア様がハルバート様の剣を弾き飛ばし、その隙にハルバート様の首に木刀を突きつけた、彼女の勝利だ。
「私の勝ちですわね、ハルバート様」
「ぐ、ぐぬぬ、も、もう一回勝負だ!!」
「望むところですわ!!」
「…………結構良いかもしれない……」
………偉い貴族令嬢二人を私の弟子(?)になる時はどうなることかと思ったが、不思議な事に今はかなり効率よく三人を鍛えられてると思う………そりゃ確かに三人になって面倒は増えたが、選択肢が増えたのは大きい。
組み手や剣の稽古となると自然、相手が私以外いないため、私とハルバート様が戦う事になるわけだが………なにぶん私と彼では身長が頭一つ、下手するとふたつぐらい違う………まぁ、自分より大きい相手の戦いの練習にはなるから、実践的と言えば実践的、しかしそれは基本ができてからの応用だ、最初から応用をやると進みが悪い………しかし、似た様な体格のアレシアとの稽古はかなり有意義なようで、日に日にハルバート様の剣の腕が上がっていってる気がする、というのも私に負けても、ハルバート様は目をキラキラさせていて、あまり悔しがっていないのも問題だ……悲しいかな人は悔しさをバネにした方が何倍も成長速度が速くなる、流石に同い年の女の子、アレシアに負けると悔しそうにもう一戦と挑み込んでいく彼。
「295、296、297、298」
「…………思ったより体力あるね、シャーリー」
「299、300!!!」
私が彼女の背中に腰をかけ、シャーリーは腕立てをやらせている、思ったより体力がある事に驚いた、シャーリーをシゴくのは今日が初日だが、まさか初日から人間乗せるほどの負荷をかけるとは思わなかった。
「やるねシャーリー、初日からできるとは思わなかった」
「いえいえ、コトハお姉様のお尻が私の背中に乗っていると考えただけで何回でもいけました!!」
「そ、そう………イテッッッ?!、な、なんだ?」
「ど、どうされましたお姉さま!!!」
私はシャーリーを褒め称えながらタオルを手渡す、彼女は汗を拭いながら平常運転の返事、少し引いてる私の頭に何かが落ちてきて、シャーリーが心配してくれる。
「大丈夫大丈夫、何かが頭に当たっただけだから……これが落ちてきたのか?………あれ?、これって…………#黄昏の明星__ヴィーナス__#?、なんでこんなところに………ムカつくけど、後でアイシャに返しに行ってやるか………」
私は降って来た物の詳細を確認する、どうやら落ちてきたのは一つの指輪、サンセット家の当主の証、#黄昏の明星__ヴィーナス__#……ムカつくやつだが、とりあえず後で渡そうと思い、ポケットへしまう。
「二人ともあんまりコン詰めても体壊すから、その辺で休憩にしようか」
「「は、はい!!」」
疲れてきたのか、ハルバート様とアレシア様の動きが鈍くなってきたところで休憩を促す、とりあえず二人の影に式神を潜ませておく。
「さて、それじゃあ、次は私達の番だね」
「はい!!、よろしくお願いしますお姉様!!」
空いたスペースでシャーリーと模擬戦をする私、嬉しそうに木刀を構える彼女……そう、私の方もハルバート様とばかりやっていると変な癖がつきそうで怖かったが、比較的体格が近いシャーリーとやることで感覚を修正できるのはありがたい。
つおい