嵐の中の異変
教会内は狭く、泊まるとしても、新郎新婦の為に用意された一室だけであり、せいぜい二人が寝泊まりするのがやっとである。
二人の亜人は、教壇に横になると罰当たりな事を言いだした。
どちらにしろ、隣りの一室の中の行為は狭い教会の中で響くに違いなかった。
三年も我慢したんだ…。
アストは自分の欲求を抑えるなんて、無理だと判断していた。
エルフとドワーフとは、明日でおさらば。
多少の物音さえ、気にしなければ恥ずかしい事はない。
アストは自身にそう念じた。
「ミレア、キミを抱きたい……」
一室に戻ったアストはミレアに抱き着き、緊張に声を奮わせながら囁いた。
ミレアは恥じらいをみせ、コクリと頷いた。
二人は、唇を重ね、愛し合う者同士、当たり前の行為をし始めた……。
「奴さん達、始まったようで…」
教壇で仰向けに寝たエルフのペテンが、軋む天井を見つめ、嫌らしい笑みをタンクに見せた。
「どうでもいい事ダ」
初めてドワーフのタンクは口にした。
「タンク、これからあっしらは何処に逃げましょうね…」
「さぁな…ワシらは気ままに旅するだけダ」
タンクは無愛想に答える。
「あっ、そろそろ嵐が来ますぜ…」
ペテンは突然話題を変えた。
「ふんっ、貴様の予知は下らんダ」
「隣りの部屋も来そうでっせ」
ペテンは再び嫌らしい笑みをうかべた。
「くだらん……」
タンクは隣り一室から聞こえる女性の喘ぎ声を、聞こえないように耳を両手で押さえた。
二人の初めての行為は終わり、アストはミレアの髪を撫でる。
一服纏わぬ二人。
アストは幸福を感じた。
ミレアの顔は自らの長髪で隠れている。
「ミレア……、キミをこれからも大事にする……」
アストはミレアの顔にかかった髪をどかし、つぶやいた。
異変に気付いたのは、その時だった。
「……ミレア?」
ミレアの目がぱっくりと開いて、天井を見つめている。
「ミレア、どうした?」
アストはミレアの肩を慌てて揺する。
反応がない……。
「ミレア!」
叫び、ミレアの胸に耳をあてる。
心臓の鼓動がしない……。
一室の異変に気付き、ペテンとタンクがドアを叩く。
「どうしやした?」
ペテンが叫ぶ。
返事がない。
あるのは中にいるアストの叫び声。
外は急に雨が降り始め、雷鳴が轟く。
豪を煮やしたドワーフは扉に体当たりした。
扉は脆くも破壊される。
二人の亜人は、部屋のベッドで横たわる裸の女性と、必死に女性の胸を両手で押すアストの必死の形相を目にし、息を飲んだ。
「ミレア、死ぬなっ!」
外で殴るような風雨と雷鳴の中、アストは泣きながら叫び続けた。