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5.天寿会

「じゃあ、おつかれー」

 

技術部の活動を終え、部員の面々と挨拶を交わしセイヤは帰路(きろ)に着く。


 スマホを取り出すと時間は既には八時を過ぎており、窓の外は既に日が落ちていた。


(ずっと帰宅部だったからここまで学校に残るのも久しぶりだな)


 駅前の広場に着くと、そこではなにやら拡声器を持って演説をしている集団がセイヤの目に入った。


「不死の技術など人類に不要! メイズの侵入に断固反対!」


(うわあ……)


 声高らかに叫ぶスーツを着た中年男性の主張にセイヤは胸中(きょうちゅう)胡乱(うろん)な声を漏らす。


 男性の胸元に薄暗がりの中で光るバッジ。それは多種の翼を背にした聖女を象っている。


 新興宗教天寿会(てんじゅかい)、それに属する者であることを示すバッジだ。


 不死の技術は人類に不要だと説き、メイズ攻略を行う者達とそれを間接的に援助するMSSA製造者達を糾弾(きゅうだん)する宗教団体。


 こうして暗くなった時間帯でも街頭演説を行うなどいやに行動的な集団であり、新興宗教という胡散臭さもあってこの場で彼らの言葉に足を止める者はいない。


 だが不死の技術がこの世にもたらされた時どうなってしまうのか、セイヤの期待の傍らには無論大きな不安もある。それはメイズに不死の技術があるのではないか噂されるようになってから誰もが感じているもの。


 故に口や態度に出さずとも彼らを裏で援助する者も多いのだろう。事実、天寿会は徐々に力を持ち始めており政界に進出するのではとまことしやかに(ささや)かれている。


 しかし以前はメイズもMSSAにもいい感情を持っていなかったセイヤは、明け透けな物言いの彼らを快く思ってはいなかったのだが。


「気持ちの悪い奴らですわね」


 突如声を掛けられセイヤは驚きつつ振り向くと、そこにはランニングでもしていたのか以前見た縦ロールを解いてウェーブしたポニーテールに結びスポーツウェア姿の九条カナエ、我が校の生徒会長が立っていた。


「会長はあっち側だと思ってたんですけど」

「はあ? 一緒にしないでいただけますこと?」


 会長は心底嫌そうに吐き捨てる。


 同じ理由、かはわからないが天寿会を快く思っていないのはセイヤと同じらしい。


「ところで会長はこんな時間にランニングですか? ひとりじゃ危ないと思うんですけど」

「心配無用ですわ。もし暴漢ぼうかんでも現れようものなら一瞬でフルボッコにしてさしあげますのよ」

「フルボッコて……」


(口悪いな。ファッションお嬢様か?)


 よく見れば着ているスポーツウェアも有名メーカーのロゴをパクったパチモンだった。


 セイヤはなんだか見てはいけないものを見てしまったような気持ちになり申し訳なく思う。


「な、なにを(あわれ)れむような眼で見ていますの!」

「べ、別になにも考えてないですよ。ただ、ごはん食べてます? 牛丼ぐらいだったら(おご)りますよ」

「貴方をここで抹殺すれば部員が減って技術部も潰せて一石二鳥ですわね」

「心配して言ってるのにッ‼」


 会長は笑顔でセイヤに視線を向けるがその目は剣呑(けんのん)に光っていた。


 と、会長の言葉でセイヤは聞かねばならないことを思い出す。


「そういえば会長。ウチの部員、何人になったか知ってます?」

「榎本が入って四人になったのなんてとっくに知っていますわ。わたくしの情報網を甘く見ないで頂けますこと?」

「やけに耳が早いですね」


 四人になったのは昨日の今日の出来事なのだが。まあ会長は技術部を廃部にしようとしているのだから耳が早いのも当然かとセイヤはひとり納得する。


「でもそれにしてはなんというか……」

「わたくしがその程度で狼狽(うろた)えるとでも? あんな弱小部、やろうと思えばいつでもぶっ潰せますわ」

「はいはい……と、もうこんな時間か」


 ふとスマホを見ればすっかり話し込んでいたようで時計は既に九時近くを差していた。


「会長の家ってこの近くですか?」

「な、なんですの急に……」

「いや、こんな時間に女子一人で帰すわけにもいかないんで送りますよ」

「別にいつものルーティーンですわ。気を遣われるようなことでもありませんのよ。……あっ」


 会長は怪訝(けげん)そうな視線をセイヤに送る。


「貴方、もしかしてわたくしの家を突き止めて廃部にされたらイタズラでもする気ですわね! 残念わたくしの家は防犯カメラにホームセキュリティ完備ですわ。もしそんなことしようものなら速攻でブタ箱送りにしますわよ!」

「しませんよそんなこと」


 まくしたてるような会長の言葉にセイヤは嘆息(たんそく)する。


 ここら辺は世間的に治安が良いと評判で、なんで家のセキュリティがそんな厳重なのか聞いてみたかったが、頭が痛くなりそうな答えが返ってきそうだったのでセイヤはそれを飲み込む。


「で、会長の家ってどっちですか? さすがに九時過ぎた状態で帰すわけにいかないんで」

「そ、そこまで言うなら仕方ありませんわね」


 根負(こんま)けしたのか会長は顔を逸らすと「あっち」と指で示す。


 会長の家は駅から歩いて十分ほどと近く、まさに一等地にあった。

 だがなにより、


「でかッ⁉」


 それは洋館とでも呼ぶべき巨大な建物を白亜(はくあ)(へい)が囲っており、正面入り口である鉄製の門扉(もんぴ)は人が十人並んでも通れそうなほどだった。


 セイヤはその光景に呆気(あっけ)に取られていると、会長は塀に備えられたインターホンに目を近づけている。と、突然門扉が音もなく開いた。


(網膜認証ぅ!)


「ファッションお嬢様じゃなかったんですね」

「もしかして馬鹿にしてますの?」


 会長はセイヤにじとりとした視線を向ける。


 だがやがて溜め息をつくとそっと笑顔を見せる。


「一応礼を言っておきますわ。ありがとうございました」


 そう言って会長は手を前に重ねると深々とお辞儀をする。


「いや、そんな大したことは」


 会長の意外にも殊勝(しゅしょう)な態度にセイヤは気後れする。


 だがそれも一瞬。会長は「フン」と小馬鹿にするように鼻を鳴らす。


「まあ借りを作ったとは思わないことですわね。ではご機嫌よう」

「別に借りを作ったつもりは」


 セイヤの言葉を無視して会長はそのまま振り返ることなく洋館の方へ歩いて行く。


 門扉を通り過ぎるとそれは音を立てることなく道を閉ざした。


(最後の最後でこれだもんなあ)


 セイヤは特に気にすることなくスマホを確認して終電に間に合っていることに安堵(あんど)しそのまま帰路(きろ)につく。


 学校近くの駅から電車に乗って約二十分。そこからさらに徒歩五分のところにセイヤの家はあった。


 会長の家に比べれば霞んでしまうが、それでも普通と比べれば大きな一戸建て。もう遅い時間にも関わらず、かといって寝る時間でもないのに窓から漏れる光はない。

 

 横の物置を開くと、注文していた段ボールが山のように置かれている。注文していたものが昨日の今日で届くことを便利だと思うと同時に配達員の多忙さを考えると気の毒に感じる。


 セイヤの家の部屋はほとんどが空いており、一階の適当な部屋に段ボールを順繰り運び込む。


 二分と経たずに運び終え、比較的小さい箱を開封すると、中にはダンベルやヨガマット、アブローラーが入っており、大きい箱はそれぞれエアロバイクにベンチプレス、その他にも多くの筋トレマシーンのパーツが入っていた。


 モニターはアスリートであり、その身を持って結果を出す。無論、MSSAの扱いがずば抜けていたとしても、帰宅部でだらけ続けていた今のセイヤの身体では到底務まるものではない。部活中だけでなく、家でも身体をつくる必要がある。


 そう考え、セイヤは大量に筋トレ器具を注文していたのだった。


「さーて、さっそく組み立てるとするか」

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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