3
続き
血とかでます。
『お律』はいつの間にか眠っていたようで、揺さぶり起こされ目が覚めた。
「姫様、姫様。目を覚まして下さい。謀反です、謀反が起きました。」
そこには黒装束の忍が『お律』を起こしていた。
『…むほん、そう、だったのですか。』
城主のやり方は間違っていた。それは誰しも分かっていた、怒りを買えばすぐに殺す様な城主だ。誰もついて行きたがらない。『お律』も分かっていたのだ、だが城主と話すにもこの身体ではどうにも出来なかった。咳がうるさいと城の中でも一番の離れに放置するほどなのだ、移動できないことをいいことに、用があれば家臣を向かわせれば良いだけ。
『お律』は忍を見た。見たことない顔だ、だがきっとあの花をくれている忍なのだろう。
『分かりました、あなたは早くお逃げなさい。きっと誰か私を殺しに来るでしょう。父上と血が繋がったものは誰であろうと殺す。私ならばそうします。私は十分生きました、ゴホッゴホ!!』
咳に血が交り口の中が鉄臭い。上手く呼吸できずヒューヒューと喉が鳴る。
両手で口を抑えるが咳が止まらず、血がどばりと出てきた。
「薬師の薬には、眠り薬と毒が交じっておりました。」
『お律』はなるほどと思った。きっと寝ている間に死ぬ様な薬だったのだろう。役立たずの道具としての私をあわれと思っていた薬師の温情だろう。
「私は貴女をあわれに思っておりました。今もそう思っております。自由に外へ出る事も出来ず、鳥籠の中の鳥の様に外を眺める事しか出来ない。なので花を一輪置いたのです。見たことないであろうと思い、ただの気まぐれでした。」
『お律』はどんどん苦しくなり何も喋る事ができず耳を傾けていた、するとポタリと忍の足元に黒い点が落ちた。自分の血ではない血が忍びからポタリポタリと落ちてくるではないか。
「私のただの気まぐれが、貴女を笑顔にしました。私はそれがどんなものよりも美しいと思いました。私の汚れた汚い心が浄化される様な気までしたのです。」
そういうと忍は『お律』を布団と一緒に抱え上げると、重さも感じない速さで走りだした。
「謀反の計画を聞き、姫を亡き者にすると長に言われ、あんなにも綺麗な人が死んで私のような忍が生きるこの世などと思いました。姫を生かす計画をしておりましたが、私が裏切ることなど分かっていたのでしょう、先回りされ、先程腹と背中を切られてしまいました。私もそう長くは保たないでしょう。」
あまり痛がっているようには見えないのは、忍だからなのか。
「裏山の中腹に山百合の群生があるのです、それを貴女に見て頂きたく。綺麗な物を最後にその瞳に写して頂きたいのです。」
『お律』は意識が遠退きそうになりながら、その忍の話を聞いていた。
きっとそこにたどり着くまで生きてはいないだろう。
どんどん咳と呼吸が激しくなっていく『お律』に「頑張って下さい」「もう少しです」と声を掛けてくる忍の顔へ手を添え、こちらを向かせると
『いつか来世で。』
そう呟きにっこりと笑った『お律』であったが、声にならぬような小さい声で、忍に聞こえているのか分からぬまま『お律』は息を引き取った。