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二作目です。
母が亡くなって3年、父と四苦八苦しながら生活していた所に父の転勤辞令が言い渡された。
中3に上がったばかりだったため、高校受験はまだだったのが幸か不幸か。
来年の転勤にむけての片付けと、転勤先の街の高校探し、受験勉強が重なって頭がパンクしそうではあったが、県外から祖母が手伝いにきたり、父のサポートがあったおかげで引越しと無事高校に入学することができた時、結は奇跡だと思った。
学校に通い新しい友人もでき、気持ち的にも余裕が出てきた六月、通学路にある大きなお屋敷がヤクザの家である事を知った。
「や…やくざ?」
「そうそう、まぁヤクザって言っても暴行騒ぎとか銃持って暴れるとか、そういうの一切ないからね。近所のお祭りに若い衆が出張って来たり、屋台したりするくらい、なんて言うの?社交的な感じ?まぁでも、やっぱり自分からホイホイ話しかけたりはしないけど」
「へぇ…」
ヤクザと言われても、映画や漫画の話しで見聞きする程度の情報しかない結は、楽観的に関わらなければ関係ないと思っていた。
ヤクザの家の前に黒塗りの車がずらりと並んでいなければ。
(どうしよう…。通りづらい…)
家に帰るには必ず通る道で、遠回りをすれば違う道もあるが結の両手には買い過ぎた買物袋があった。キャベツが安かったのとスーパーと家の距離が近いのでイケると判断したのが原因であった。
両手をギリギリ締め付けてくる買物袋に遠回りを断念した結は道路の反対側から通ろうと左右を確認しようと立ち止まった。
今まさに車から出てくる人物を数人の男が礼をしながら待っているところで、やはり気になってしまい、左右確認しつつどんな人物が出てくるの見ていた。
明るい金髪を後ろに流した若い男で、出てすぐ年上であろう人から煙草を点けてもらっていた。
(へぇ、煙草点けてもらってるってことは、あの人偉い人なんだ。)
遠目で見ていたが、視線に気づいたその若い男が結の方を見た。
視線が合ったのはたったの数秒であった。
数秒であったが、なんだか懐かしく切ない気持ちがじわじわと湧いて出てきた結は立っておれず段々となんとも言えない感情に押しつぶされながら気が遠くなっていった。ガチャンという音と遠くから姫と叫ぶ声を聞きながら
(あー……、卵割れた……)