第4話 空の旅は好きですか?僕は高所恐怖症なので好きじゃないです
「うわぁー高いね。私もまだ2、3回しか乗ったことないんだ.......て、あれ?タカシ聞いてる?」
「.......うん」
「顔色悪いよ大丈夫?」
「.......うん」
すっかり自分が高所恐怖症のことを忘れていた。
高度は既に東京スカイツリー位の高さまできている。
前を向くのも怖い。
僕はずっと目を瞑って離陸を待つしか出来なかった。
何でシートベルトがないんだ。
安全性問題があるだろ。
そんなことを思っても後の祭り。
そもそも異世界に転生した時点で常識なんか通用しない。
目の前は目を瞑っているせいで真っ暗だ。
何かに捕まらないと不安でしょうがなくなった。
ギュッと近くにあった何かを掴む。
何やら感触は思った程柔らかく、人のお腹を触っているみたいだった。
「これに捕まってれば安心、安心。ねぇエクレール僕が捕まってるの何?」
「.......」
「あれ?エクーー」
その瞬間僕は宙に浮くような感覚になる。
急に体の自由がきくようになり僕は焦る。
目を開けるとそこは空だった。
「.......へ?」
状況が整理できない。
何で僕はここにいるの?
カイトは?
エクレールは?
そんなことを考えている間にも僕は落下し続ける。
逆にここまで窮地に追いやられると冷静になる。
しかし冷静になったからといって常識は何も変わっていない。
下には海が見える。
Q.この速度で落ちたら僕はどうなるのでしょう?
A.死ぬ
正解です。
そんなクイズをやりながら死を待つ。
「あぁ最後に天和上がりたかったなぁ」
そんな独り言を呟いていると、1匹のドラゴンが横を猛スピードで追い越し僕の真下にくる。
その正体はカイトとエクレールだった。
「神よ奇跡を起こしたまえ」
「え?何?」
眩い光が僕を包み込む。
すごく暖かい光だった。
安心できる。
すごく眠くなってきた。
僕の意識はどんどん遠ざかっていった。
「.......ん?」
「あ、起きた?おはよう」
「おはよう.......。ここは?」
「王都よ」
「へ?え、ちょっと待って、さっきまで僕空の旅してたんですけど.......。え?何時間暗い寝てた?」
「んー。だいたい3時間位じゃない」
「3時間.......。あれ?カイトは?」
「あぁカイトなら外にいるわよ」
「空の旅はしたのか.......。ねぇ変なこと聞くけど僕1回カイトから落とされなかった?」
エクレールの表情が変わる。
「へ?そ、そんなことないわよ.......」
明らかに何かを隠している顔をしていた。
「何にも隠してないよね?」
「う、うん。隠し事なんてする訳ないじゃん。やだなぁ」
「へぇ。分かった。隠し事してないって言うなら僕は信じよう。まぁエクレールが嘘つくわけないもんね」
僕は満面の笑みをエクレールに向ける。
「あ、当たり前じゃない」
「でも、もし嘘をついてるのが分かったらどうなるか、分かってるよね」
更に口角を上げる。
「.......」
返事がない。
エクレールの顔は少し落ち込んでいた。
「ねぇタカシ」
「なに?」
「実は私タカシを突き落としたの.......」
「やっぱりな」
「え?分かってたの?あ、でもタカシが悪いんだからね」
「え?何で?」
「だってタカシがいきなり後ろから抱きついてきて.......」
エクレールの顔が赤くなる。
可愛い。
しかし悪いのが自分だという事実も知ってしまった。
事故とはいへ突き落とされるのも当然だろう。
「ごめん」
僕は頭を下げる。
「いや、全然いいですよ。私も突き落としましたし」
「本当にすいませんでした」
「それよりどうしますか?とりあえず今日に泊まればいいと思うんですけど.......」
「あ、じゃあ僕自分の部屋借りてきますね」
「いや、それがもうこの部屋しか空いてないみたいで.......」
「じゃあ僕外で野宿しますね」
「いや、それはタカシが風邪引いちゃうんじゃ.......」
「大丈夫」
「いや、大丈夫じゃないよね」
「いや、僕がエクレールと一晩を越す方がよっぽど大丈夫じゃない」
「私は別に.......いい....よ」
さっきよりも顔が赤くなる。
はい可愛い。
こんな邪念しかない脳内真っピンク野郎と一緒に過ごしてくれるとは.......
「じゃあ僕床で寝るね」
「え、いいよ。ベット使って」
「いや、そこを譲られたら男が廃るんで」
「あ、そう」
窓の外を見ると日が落ちかけていた。
その時、ぐぅーと僕のお腹が鳴る。
「あはは、お腹空いちゃって」
「じゃあご飯食べに行きましょうか」
軽い身支度を済ませ、宿屋を後にした。
流石に王都ということもあって、あの時の村よりも人はいっぱいいた。
「こっち」
僕はエクレールが案内する通りに歩き続ける。
しかしどんどん人はいなくなっていく。
それでもエクレールは歩き続けている。
そして路地の中にひっそりと佇むBARらしき店の前でエクレールは足を止めた。
「ここ?」
「そう。私のお気に入りのお店なの」
そう言いながら身にまとっていたローブを外しながら店に入って行く。
僕もその後に続いて店に入る。
中に客はいなくて、カウンターの奥にマスターらしき人物が1人立っていた。
「マスター久しぶり!!」
「おぉエクレールか、久しぶりだね。何?冒険はもういいのかい?」
マスターは穏やかそうなちょび髭を生やしたおじさんだった。
「あれ、あの子は誰だ?彼氏?」
「いや、彼氏じゃないけど冒険のパートナーだよ」
「おぉ遂にパーティーを組んだのか、今日はお祝いだな。そこの君、名前は?」
「あ、タカシと言います」
「タカシか.......聞いた事ないな、どこ出身?」
僕の額から汗が滴り落ちる。
僕は必死に考える。
そして何も浮かばななかったのでとりあえず、「.......え、二ーホンです」
「二、二ーホンだって」
(お、この反応はもしかして二ーホンという所があるのか?)
「どこだそれ?」
僕の予想とは違う返答が返ってくる。
ま、そうだよねと思いながらモジモジしている。
「ま、いいか。まだこの世界は半分も調査されてないんだからな。タカシ、これからエクレールを宜しく頼むぞ」
「あ、はい。任せてください」
そしてマスターは笑いながら厨房に入っていった。
「どう?」
「あ、凄い雰囲気があっていい店だと思うよ。マスターも面白そうだし」
「気に入って貰えてよかったよ」
「あ、そうだ。エクレールが僕を助ける時に見たあの神様みたいのは何?」
またエクレールの表情が固まる。
「あ、いやぁ、なんと言うか、そのぉ」
明らかにお茶を濁そうとしている。
「まぁ言いたくないなら言わなくてもいいよ」
「いや、どうせ私と冒険していくのなら、いつかは知ってしまう事だから今話す」
そう言ってエクレールは語り始めた。