第98話、雨のような
敵陣からラッパのような音が響いたと思ったら、たくさんの矢が飛んできた。
「反撃せよ!」
榎本軍師が号令を放つと、こちらからも雨のような弓矢が敵に飛んでいく。
帝国軍が先手を取ったか……。まあ、敵にとってはジッとしていても意味がないよな。
矢と矢の応酬だ。風景にノイズが走っていると感じるような弓矢の豪雨。俺達が待機しているやぐらにも矢が当たる。やぐらには鉄板が張ってあるので、カンカンという金属音が響いた。
敵は盾を構えながら少しずつ前進してくる。銀色に光る金属製の盾は、俺達の矢を難なくはじき返していた。
味方の木製の盾には矢が剣山のように突き刺さっていた。しかし、被害は少ない。下から放つ矢と上から射る矢とでは威力が違う。それに、崖の上は死角になっているので向こうは狙いを付けることができずに、ただ闇雲に弓を引いているだけなのだ。
敵の先頭は崖に取り付き、盾で頭を守りながら登り始めた。スゲー根性だなあ。
登ってくる敵を身を乗り出して攻撃しようとした兵が弓で射られて落ちていく。帝国軍の弓は正確だ。敵兵は熟練しているよう。
こちらは石を落としたり熱湯をぶちまけたりして、登ってくる兵に悲鳴を上げさせた。
たまらずに落下する兵は、下から登り始めた者を巻き込んで落ちていく。上の方が断然有利なのは当たり前だよな。このような戦いになるかのが分かっていたから、今まで帝国軍は攻めてこなかったのだ。
しばらくすると崖の下には敵兵の死体が散らばり始めた。それでも帝国軍はひるむことなく攻撃してくる。いったい、どんな訓練をして、どのような戦いを経験すると、そこまで勇敢になれるのだろう。
しばらく戦いが続き、まだ来るのかな、と思ったときに敵陣から太鼓の音が聞こえてきた。
すると敵兵は整然と撤退を始めた。
盾に隠れて矢を放つ。そして、さっと下がって、また牽制の弓矢を放ちながら逃げていく。器用なことをやっているよな。
共和国軍は逃走する敵に目がけて、ここぞとばかり矢を浴びせかけた。
「攻撃中止!」
メガホンから榎本軍師の命令が飛んだ。
兵達は弓を放り投げて、その場に座り込む。夏の陣は汗まみれの戦いだ。
*
敵が完全に撤退したことを確認した後、下に転がっている死体を片付けた。
味方の死体は後方に運んで遺族に引き取ってもらう。敵の死体は前方の帝国軍の方に持っていって積み上げた。
敵の厭戦気分を高めるためのバリケードにしても良いのだが、この暑さでは疫病が発生するかもしれないのでガソリンをかけて燃やすことにした。
あー、戦争って嫌だなあ
それなのに、お金のために人殺しの手伝いをしているのか俺達は……。
人間同士が争って、勝った方が利得を手に入れる、それを何千年も続けてきたのだ。
現代の日本でも同じかな……。社会では他人を蹴落とし、踏みつけてマネーを得る。大なり小なり経済の戦いに勝った者が金持ちになり、搾取される方が貧乏人になる。そして、貧富の差は拡大していくのだ。資本主義という絶対的な定めの中で人々はマネーを求めて争っていく。
だから、俺達がお金を得るために人を殺したとしても、それは人間社会の道理・本質に合っているのだ……。そう思うことにしよう。




