第97話、やぐら
榎本軍師は俺達の方を向く。
「今回は銃器などの現代兵器を使わないことにしましょう」
「えっ」
俺と野田が同時に声を出した。せっかく向こうから転送して持ってきたショットガンや軽機関銃などを使わないというのか。
「スパイがいるとしても、こちらの軍備については知らないはず。特に、銃器などの転送してきた武器は私達が管理しているので知りようがありません」
榎本さんは淡々と説明する。
「なるほどな……つまり、こちらの戦力を敵に過小評価させようというのだな」
重松さんがあごひげを引っ張りながら言うと、榎本さんが深くうなずく。
「そのとおり。銃器は弾切れしたのか、それとも、使うのに躊躇するほど装備が少ないと敵に思わせるのです」
そうか、榎本軍師は色々と思いつくな。
「それで、佐藤さん達は今回、戦闘に参加しないでください」
「えっ?」
俺と野田はサボっていていいのか。
「佐藤さん達は弓矢などを使ったことがないでしょう。迎撃に参加しても、それほど戦力になりません。それに、あなたが殺されてしまったら物資を転送できなくなって、共和国軍が壊滅的に不利になるのですよ」
そう言って榎本さんはニッコリと笑った。
「はあ、そうですか……」
まあ、その方が危険がなくて良いのだが。だったら、今まで散々、危ないことをやらされたのは何だったのだろう。戦力が少なかったからか?
「今回は、やぐらに登って戦闘の状況確認でもやっていてくれよ、佐藤司令官」
ヒゲ面の重松さんがニヤリと笑う。
やぐらというのは崖の端の方に建っている木を組んで作った物だ。十メートルくらいの高さで、周りに鉄板を張って防御を強めている。
そこなら弓矢で攻撃されても安心だ。今回はのんびりとしていられるかな。
*
俺と野田はやぐらに登り、小さな穴から双眼鏡で道の向こうを見ていた。
しばらくすると黒い塊が、うごめきながら近づいてきた。それはキャンベル帝国の先発隊。
先鋒の兵は金属製の盾を構えながら進軍している。
やはり、ショットガン対策をしているんだ。まあ、それだけ銃器は威力があるので怖いということか。トルディア王国防衛戦で思い知ったんだろうな。
崖の下は草野球のグラウンドくらいの広さ。そこは大小、たくさんの石が転がっている荒れ地だ。そこに帝国軍が展開して弓を用意しているよう。共和国軍も柵から弓を構えて狙いを定めている。
日は傾き始めているが、強い日差しを谷間に降りいでいた。戦闘直前、両者の顔には普通の汗と冷や汗が混じっているだろう。
アマンダ共和国夏の陣というやつか。冬の陣まで引き延ばされずに決着がつけば良いが。




