第87話、オプション能力
「さあ、早く小芝居をやりなさいだわよ」
コパルはニコニコ笑って小太り中年オヤジのコスプレを楽しんでいるよう。
俺と野田は顔を見合わせて何も考えられない。
「もう、早くしなさいよ。さもないと転送能力を取り上げてトルディア王国に置き去りにするだわよ」
ああ、コパルは俺達がトルディア王国のお尋ね者になっていることを知っているのか。
「佐藤さん。なんだかよく分からないが、その魔法少女とやらになりきってプレイしろよ」
重松さんの野太い声。まったく、人ごとだと思って……。
「異世界に行くことができなければプラチナも手に入らないぜ」
重松さんの指摘に正気を取り戻す。そうだった、俺達は大金が欲しい。そのためには女装くらい何だというのだ。
「野田!」
よし、やろうぜ。
彼の目を見てアイコンタクト。
分かった、佐藤。やってやろうじゃないか。
あいつのテレパシーが俺に届く。お金を媒体にして二人の思いが通じ合ったようだ。
野田が腰を低くして攻撃態勢を取った。
「マフユ、あなたの好き勝手にはさせないわ」
ああ、あの場面か。俺はアニメのワンシーンを思い出す。
「この人間世界は汚れているわ。私が征服して下等な人間達を導いてあげるのよ」
そう言って俺も両手を前にして構えた。
「そんなことは許さない!」
野田の回し蹴り。それを後ずさりしてかわす。良かった、彼の下着は男物のトランクスだ。ということは俺もブリーフか。
「ジュリア、あなたは私に勝てないわ」
えーい、と言って右ストレートを野田に繰り出す。俺の胸がポヨンと揺れた。ブラジャーを装着していて、それには弾力性のパッドが入っているよう。野田は、そこまで徹底していたのか。
魔法少女ジュリアは魔法を使うが、基本的に格闘系のアニメだ。そのジャンルでは珍しいタイプ。
しばらく、中年男の二人はドタバタと魔法少女ごっこを続けた。
重松さんを見ると笑っていたし、アズベルは苦笑していた。そして、なぜか榎本さんは俺達の芝居を真剣に鑑賞している。
ああ、香奈恵と祐子さんがいなくて良かったぜ。
「もう、いいだわよ」
やっと終了のゴングが鳴ったようだ。
「思ったよりも楽しくないわね」
だったら、やらせなきゃいいだろ。
「申し訳ございません」
不満を言葉には出さずに俺達は幼女悪魔の前で土下座した。
「まあ、頑張ってくれたから、新しい能力を与えるだわよ」
「ははーっ」
「異世界に転送したら戻ってくるときは同じ場所だったけど、今度からは前に行った場所なら好きな所に転送できるようにしてあげる」
「はあ……」
何だよ。たったそれだけか。
いや、そうじゃない……。よく考えると、それは異世界を介して地球上のどこにでもテレポートできるということだよな。結構、凄い能力。
「重量制限は解除できないのよね。うっかり、地球を異世界に転送したらマズいでしょ」
「はい」
まあ、そうだな。
「だから、一日につき二人分の重さを転送可能重量に追加してあげるだわよ」
つまり、24時間転送しなければ百キロくらいがポイント加算されるということか。一度でも転送してしまうと制限は元に戻るんだろう。
「はい、ありがとうございます」
これでウニモグも異世界に持って行けるな。
「じゃあ、頑張って王様になるだわよ」
女装して犬のように這いつくばっている俺の背中に重量感。幼女が背中にまたがっている。
コパルの体温が背中に伝わってきて変な感情が沸き起こった。俺ってヤバいかな。
「じゃあ、さよならだわよ」
悪魔は俺のケツをバトンでパチンと叩くと消えてしまった。
俺と野田が立ち上がる。コスプレ衣装はそのままだ。元の服装に戻してくれなかったのか……。
客間に、沈黙の気まずい空気が充満していた。




