第85話、ウニモグ
異世界から戻ってきてから三日後。
俺と野田は土蔵に保管していてプラチナの板をレクサスの後部トランクに運んでいた。
サンプルとして香奈恵が持っていった板は、やはりプラチナで、イリジウムなどのレアメタルを多量に含んでいたそうだ。とくにロジウムの含有量が多くて、一割以上も入っていた。それによって単価はゴールドよりも高くなるという。
土蔵には五百キロほどのプラチナが置いてある。その半分くらいを香奈恵のルートで換金することにした。それで十数億円になるはず。
レクサスのサスペンションが沈むくらいにプラチナを詰め込んだあと、俺と野田はグッタリと草の上に座り込んだ。
初夏の日差しの下、汗まみれの小太りオヤジが二人。他人が見たらうっとうしいと思うだろう。
クラクションの音がしたので入り口の方を見ると、榎本さんが運転する軽トラックと見慣れない大型トラックが入ってきた。
「やあ、佐藤さん。お待たせ」
そう言って大型トラックから降りてきたのはヒゲ面の重松さん。その後ろから榎本さんもついてきた。
「重松さん、そのデカいトラックは何ですか」
俺が聞くと彼はニヤリと笑う。
「これは荒れ地でも平気で走行できる高機動型の特別車さ」
「はあ、そうなんですか」
やけにタイヤが大きくて重心が低そうな車。そんな物は今まで見たことがない。
「これはウニモグといって急な斜面や泥道でも通ることができる車だ。かなり高かったんだぜ」
「いくらしたんですか」
車体は傷が多くて汚れている。どのように使ってきたのだろう。
「運送オプションを付けて三千万円だ」
俺は言葉を失う。中古でも、そんなにするのか。新車なら俺のフェラーリよりも高いのだろうな。
彼は、それを異世界で使うつもりなのか。しかし、それだと問題がある。
「転送には重量制限があるんですよ。その車は無理じゃないのかな……」
俺が言うと、重松さんは腕を組んで黙り込む。
「それでですね……佐藤さん」
後ろの榎本さんが進み出た。
「この前に転送したとき、私達は若くなりませんでしたよね」
「ええ、まあ」
若返りサービスは終わったのかな。
「つまり、転送能力や若返りは付け足したり削除したりすることができるんですよ」
「はあ」
「ならば、転送の重量制限も変えることができると思います」
「はあ、そうですね……」
だから、どうしたというのだろう。
「それで佐藤さん達が、あの悪魔に頼んで重量制限を高くしてもらうように頼んでくれませんか」
「はい?」
例の幼女悪魔を呼び出すというのか。あまり、気が進まないなあ。
「まあ、とりあえず。頼むだけ頼んでみてくれよ、佐藤さん。ダメなら別の方法を考えるから」
重松さんも言うのだから、やるしかないのか。
野田を見ると嫌そうに首をかしげていた。




