第83話、プラチナ
「まだ精錬されていないので、イリジウムやロジウムなども含まれているかもしれません。ひょっとすると単価はゴールドよりも高くなるかも……」
ボソボソと言っている榎本さん。その説明を聞いて心臓がバクバクしてきた。野田も金魚のようにハアハアと口呼吸している。
「サトウさん、いかがでしょうか……。これでダメなら鉄骨を大量に用意しますが……」
俺の顔色をうかがうように議長が聞く。
「いや、鉄骨は要りません」
そんな利益にならない、かさばる物を持っていってどうするのか。日本に持ち帰っても売りさばくのは難しいだろう。
「このクズ銀は全部もらってもいいんですか」
「ええ……どうぞ、ご自由に」
議長は不思議そうな顔で俺を見ている。なんで動揺しているのか理解できないよな
日本に大量のプラチナを持っていけば香奈恵が狂喜するだろう。俺の頭の中を札束が舞っていた。お金は十分に持っているはずなのに、まだまだ欲しい。お金という物は海水のようで、飲めば飲むほど喉が渇くのだろうか。
「こ、これはカマリア王国という国から送られてきたんですよね。そこではプラ……いや、クズ銀が大量に採れるんですか」
野田の声が興奮している。
「ええ、そうですね。我が国から鉄骨などを輸出して、その代金の代わりに銀をもらっています。その中には役に立たないクズ銀が、けっこう混じっているんですよ」
そんなにプラチナが産出されるのか。後で、そのカマリア王国とやらに行ってみたいものだ。
「そのカマリア王国と同盟を組むことはできないのでしょうか?」
榎本さんが議長に問う。榎本さんはマネーよりも戦略の方が優先なのだ。
議長は口を曲げて首を振った。
「カマリア王国は小さな国でしてね。銀や農産物くらいしか輸出するものがないので軍事力も小さい。それに国王の娘をキャンベル帝国に人質として預けているので、帝国に刃向かうことはできないでしょう」
そうなんだ。小さな国は苦労するなあ。
「それで……いかかですか」
議長が遠慮深そうにして俺に答えをうながす。
「分かりました。引き受けましょう」
俺は胸を張って堂々と宣言する。
「野田もオッケーだよな」
確認すると、彼はブンブンと首を縦に振った。大金が手に入るのだから、多少の危険は覚悟しなきゃね。
「榎本さん達も了解ですよね」
「ああ、いいよ。司令官の命令じゃあ、仕方ないわな」
ヒゲ面の重松さんが親指を立ててグッジョブのサイン。小さくうなずく榎本さん。
「司令官?」
それは俺のことか?
「ああ、この作戦のキーマンは佐藤さんだからな。あんたが司令官だ」
「えっ、でも、それは榎本さんか重松さんの方が適任では?」
「ああ、いいよ、俺は将軍くらいで適当さ。後ろでドッカリと座って指示するのは性に合わない。前線で戦うのが俺にとってやりやすいのさ」
重松将軍か……確かに似合っているかも。
「私も軍師、つまりナンバー2で良いですよ。方針は佐藤さんが決めて下さい。私はそれに対して具体的な作戦案を提示するだけです」
榎本さんがにこやかに言った。戦いに臨んで精気が湧き出してきているよう。二人とも物騒な性質をしているんだなあ。
まあ、いいか。司令官と言っても、異世界と日本を行き来して物資を移送するパシリのようなものだろうから。




