第82話、銀
議長はカッコ良いことを言ったようだが、本当にそうだろうか。
国民にとっては君主制だろうが民主制だろうが関係ないだろう。要は自分達の生活が一定水準で維持されれば良いと考えているのではないだろうか。
毎日が変わりなく、安心して営みを続けていくことができれば国の体制は関係ない。イデオロギーよりも家族の安泰が重要だと思っているのだ。
そういった国民生活の現在と将来を保証するのが為政者の役目なのではないか。
「そうだ……まだ銀製品が残っていた」
議長が顔を上げる。
「銀……ですか」
俺が聞くと強くうなずく議長。
「隣のカマリア王国から送られてきた銀製品がある。君たちへの報酬は、それで支払うことにしよう」
俺と野田は顔を見合わせた。
銀は金製品と比べて単価が低い。異世界では貴重かもしれないが日本に持っていっても、そんなには高い金額にならないだろう。
とにかく、俺達は議事堂に行くことにした。
馬車に揺られて石畳の道を進む。
気が早いことに、榎本さんと重松さんは帝国を迎撃する相談をしている。戦争人間の彼らは、やる気満々のようだ。でも、お金にならないことはしたくない人間なんだよな俺は。
議事堂に着いて正門から入る。議長の後に続いて、俺達は地下に降りていった。
細い廊下の先には金属製の両開きの扉。俺はトルディア王国の宝物庫を思い出す。ここが国の財産を保管している部屋なのか。
議長の部下と思われる太った男が鍵を開けてドアをゆっくりと開く。
男が壁のロウソクに火を点けると、部屋の中が薄く浮かび上がった。
中には棚がたくさんあり、そこには首飾りや杯などの数々の装飾品が銀色に光っていた。
確かにきれいな物だが、この全てを日本で売っても一千万円に達しないだろう。
俺と野田はネックレスなどを手に取って眺めた。この量では命を賭けるに値しないよな。
「どうですか……」
議長は期待を込めて俺を見ている。しかし、ため息をついて首を振るしかない。
「黄金とか宝石とかはないんですかねえ」
図々しく野田が聞く。
「いや今は、これだけしか用意できないのです……」
議長が口をギュッと結ぶ。
ため息をついて俺は周りを見た。ふと部屋の隅に目が行く。
そこには鈍く光る銀色の板が無造作に置いてある。カマボコ板くらいの大きさのプレートがたくさん積み上げているのだ。
「あれは何ですか」
「ああ、あれはクズ銀ですよ。なかなか融けないので加工しづらくてね。後で捨てようかと思っていたんです」
俺は近寄って、その板を持ってみる。それは銀に比べてけっこう重い。これは本当にシルバーなのだろうか。比較してみると銀よりも反射率が低いようだが。
「これはプラチナですね」
俺の横、腰をかがめて板を見ている榎本さんが言った。
「プラチナ!」
野田が声を上げた。
「ええ、銀と比べて重いですし、ちょっと灰色になっているので、これは白金でしょう」
プラチナはゴールドと比べても、それほど単価は低くない。このプラチナの山は一トン以上あると思われるので換金すれば数十億の値段がつく。
俺と野田の鼻息が荒くなった。




