第8話、金貨
「それで、どうすんだよ、香奈恵」
野田がグイッとグラスのワインを飲み干す。
「うーん、そうねえ。うーん」
彼女は、広いテーブルに置かれた料理をモグモグ食べている。
「どうしようかしら」
口の中の物を飲み込んでから平然と言う。
「ノープランかよ……」
あきれたように野田。
豪華な応接間には長いテーブルがあって、今まで見たこともない豪華な料理が並べてあった。さっきまではメイド服を着た使用人がズラッと後ろに控えていたのだが、自分たちだけで話したいからと外に出てもらったのだ。
「だってえ……あたし達が救国の勇者とやらではないと知られたら、どうなるか分からないわよ」
それは香奈恵の言うとおりだ。
「確かにそうだな。あの雰囲気から言って、何の能力もない平凡な中年トリオだとバレたら投獄されるかもな……」
そう言って俺は腕組みをする。
「それだけじゃなくて縛り首とかになるかもしれないわ……」
ああ、それは嫌だなあ。背もたれに体重を掛けて俺は天井を見上げる。
「どうして、こんなことになってしまったんだ……」
高い天井にはシャンデリアが吊り下げられていて、たくさんのロウソクがきらめいていた。
「でも、金貨はもらったんだから、後は日本にトンズラすればいいんじゃない?」
香奈恵はテーブルの上の革袋を持ち上げる。
シャリッという音が小さく響く。中には金貨が100枚入っているのだ。
俺も横に置いてある袋を持ってみた。ズッシリと手応えがある。ゴールドは重いんだなあ。
口を結んでいた紐をほどいて中を覗く。
五百円玉よりも少し大きい黄金の硬貨が光っている。
「日本に持っていけばウハウハだな」
野田も自分の金貨を見てニコニコしていた。
「この金貨はいくらになるのかな」
俺が言うと、香奈恵は1枚を手のひらに乗せて上下に動かす。
「この重さは1オンス金貨のようだから、1枚で15万円くらいかな」
「えーっ」
俺と野田は驚いてマジマジと金貨を眺める。
そんなにするのかゴールドは。すると、100枚だと1500万円になる……ということかあ?
皆は袋の中を凝視している。興奮している俺達の目にはドルマークが浮かんでいることだろう。
「しかし、問題はどうやって日本に帰るかだよなあ……」
野田が長いため息をつく。
「それは……佐藤さんが私達を連れて転送すればいいんじゃない?」
こともなげに言う香奈恵。
何を言っているんだ、この女。そんなことができるはずがないだろう。




