第78話、サービス終了
転送した場所は、校庭のような場所だった。
庭は手入れされていなくて石ころと雑草だらけ。自宅の内装は豪華なのに、庭には気を遣わないのか。
目の前に三階建ての豪邸。ミッキー老人の家だ。
「おい、佐藤。お前の姿……」
野田の声に振り向くと、彼は若返っていない。それは中年の姿で、榎本さんも同じだ。俺が、自分の腹に手をやるとブヨブヨの贅肉。若返りのオプションは有効期限が切れたのだろうか。
「若い体の時はやる気満々だったのになあ……」
野田がぼやく。
そうなんだよな。高校時代はムダに体力があった。
「まあ、仕方がないさ。とにかく、用件を済ませようぜ」
物事に動じない重松さんが玄関に向かう。俺達も後に続いた。しかし、ストレートに行っちゃって大丈夫かなあ。
重松さんがドアを叩くと、しばらくしてドアが開いた。
「いらっしゃいませ」
玄関に現れたのは、若いお姉さん。確か二十歳で、ミッキー老人の世話をしているんだっけか。そう言えば、名前を聞いていなかったな。
「ああ、どうも、久しぶりです。前にも来たことがあるんですが、憶えてますか」
ぶっきらぼうな重松さんの言い方。相手は小さく首を縦に振った。
「ちょっと確認しておきたいんだが、俺達がミッキー老人に会っても問題が起きないかなあ……。例えば、議会に逮捕されるとか……」
それだよな……問題は。俺達が指名手配になっていなければ良いが。
「それは大丈夫ですよ。逆にミッキーさんは、あなたたちと会いたがっています」
ニッコリと笑いながら答えた。彼女の笑顔に嘘はないようだ。
彼女に案内されて、二階の部屋に行った。
ドアを開けると、ミッキー老人が机に座って何やら書類を見ている。
「おお、お前達! 会いたかったぞ」
老人は、立ち上がってこちらに向かってくる。
「どうも、お久しぶりです」
「あの変な乗り物は動かなくなったぞ。どうすれば良いのだ」
俺の挨拶を無視して文句を言ってきた。
「あのハリアーか。それはたぶんガソリンが無くなったんだよ」
野田がタメ口で説明。自分のオフロード車を取られたのをまだ根に持っているようだ。
「がそりん? がそりんとはなんだ……」
老人が野田に向かって口をとがらす。
「車を動かすのには燃料が必要なのさ。エネルギーが無いと走らない。人間だって飯を食わないと動けなくなるだろ」
「だったら、さっさと持ってこい。山の中で止まったままなんだぞ」
常に強気のフィクサー老人だ。この共和国では権勢を誇っているから、礼儀を考えなくなるんだろうな。
ムッとしている野田の肩に手を置いて重松さんが言った。
「ご老人。ガソリンもタダというわけにはいかないですね。それは今度、持ってくるけど、も、その代わりに情報をいただけませんか」
ドスの利いた声。重松さんはどのようなときも臆することがない。
「情報だと……」
いぶかしげな表情のミッキー老人だった。




