第73話、激闘
ウォルターさんの剣は重松さんの体に吸い寄せられるように襲い、同田貫には糸が結んであるのかと思うほど、相手の攻撃に追従して剣を受け止めた。
達人同士の戦い。ちょっと気を抜けば殺されてしまうだろう。
ウォルターさんは一歩下がり、気を溜めて思い切り打ち込んできた。それに対応して重松さんも足を踏ん張って剛力の一撃を振る。
ガキーン!
金属が壊れる音がして床が振動した。叩き折られて壁に突き刺さる剣の先が二つ。
一瞬、時が止まり、直後に同田貫を捨てて懐に入り、腹に肘をめり込ませる。うめき声を上げて床にしゃがみ込むウォルターさん。
「祐子! 下がれ」
重松さんの指示を受けて宝物庫に駆け込む彼女。床には五人の衛兵が倒れていた。
刀を拾い、宝物庫に入って扉を閉める重松さん。さすがの豪傑でも息が激しい。かんぬきの様に扉の取っ手に刀を入れた。
「よし、撤収するぞ。佐藤さん」
五個の木箱に抱きつく俺の肩をガッシリとつかむ野田と重松さん。祐子さんは両手で俺の首を巻いていた。
扉を叩く音が部屋に響く。それは大きなハンマーの様だ。壊して入るつもりか。
「転送します!」
雑草だらけの庭を思い浮かべる。これで日本に帰れば大金持ちだ。
あれ……? 何も変化がない。いつもなら風景がゆがむのだが。
「どうしたんだよ、佐藤」
野田の焦っている声。
「重すぎるのかなあ……。そう言えば重量制限があったよなあ」
転送しようとすると何かに引っ張られて制止される感覚がある。
「こんなに要らねえだろ!」
重松さんが一つの木箱を蹴飛ばした。床に散らばる財宝。
「あー!」
俺と野田が黄色い声を出す。
「さっさとしろ! 死にたいのか」
思い切り重松さんから怒鳴りつけられた。
命あって物種か……仕切り直して集中。攻撃されている扉はギシギシという情けない音に変わってきている。
実家の庭を頭に描く。部屋の風景がゆがんできた。今度は上手くいきそう。扉が破られた瞬間、視界は黒に染まった。
*
見慣れた、とても良く見慣れている野田家の庭だった。俺達は無事に帰ってきたんだ。
雑草の上に腰を下ろす。それから大きく深呼吸、俺は腰が抜けたかも。
「やったー! やったのね」
玄関から香奈恵が飛び出してきた。
座り込んでいる野田を押しのけ、満面の笑顔で金貨などが入った木箱に手を突っ込む。
ジャラジャラと小気味よい音を出している黄金装飾品。俺達は勝負に勝ったのだ。……まあ、戦ったのは重松さんと祐子さんなのだが。
少し落ち着いてから、男四人で木箱を台車に乗せ、庭の端に建っている土蔵に運んだ。
古い土蔵だが、壁には鉄筋が入っていてセキュリティは完璧。
それから居間に皆が集まった。
重松さんは二リットルのペットボトルの水を口をつけて飲んでいる。
「さすがは重松さんですね。あのウォルターさんに勝つなんて」
俺が称賛すると彼はペットボトルを離して首を振った。
「いや、実力はウォルターさんの方が上だったさ。しかし、彼には迷いがあったからな。俺が勝ったのは、まぐれってやつだよ」
そしてまた、ゴクゴクと水を飲んだ。
俺と野田、それに香奈恵は財宝の分け前の相談をし始める。
金色マントを膝の上に置いて黙り込んでいる榎本さん。彼には多額の報酬を約束した。しかし、彼は笑って小さくうなずいただけで、どこか寂しそうだった。




