第72話、宝物庫
着いた場所は真っ暗闇だったので、持っていったLEDランタンを点けた。
一度、来たことがある宝物庫で間違いない。金貨や宝石が無造作に置かれている。
「やったー、お宝だー!」
小学生のように野田がはしゃいでいる。
「早くしろ! 外の衛兵に気づかれるぞ」
重松さんの注意を素直に聞いて、俺と野田は開いていた木箱に黄金細工の剣や金貨、宝石などを放り込む。
祐子さんと重松さんは、ドアの前に立ち、外の気配をうかがっているよう。
五個目の箱が満杯になろうとしたとき、扉の外が騒がしくなり、ドアが開いた。
「やはり、来ていましたか……」
そこにはウォルターが立っていた。背後には数人の近衛兵。
「やっぱり気がついたか。頭の良いあんたのことだから来るとは思っていたがな」
ため息をつく重松さん。
「投降してもらえませんか、殺すように命令されているのはサトウ殿だけです」
おいおい冗談じゃないぜ、美形の剣士さんよお。
「そうもいかんよ……、俺は佐藤さんの用心棒になったからな」
頼もしいなあ、重松さんは。
「あなたとは戦いたくありません……」
そう言ってウォルターは口を結ぶ。
「奇遇だなあ、俺もだよ」
対して不敵に笑う。
「しかし、姫の命令です。殺させてもらいます」
「いい覚悟だぜ、ウォルターさん。王国でも自衛隊でも上からの命令じゃあ仕方ないわな」
ウォルターは扉の外に下がり、剣を抜いた。広い廊下で戦おうというのか。
「お前達は手を出すな。かなう相手ではない、下がっていろ」
後ろの近衛兵達は素直に後退した。
「じゃあ、やるか。祐子、お前は後ろの五人を頼む」
重松さんは外に出て太い日本刀を抜く。祐子さんは廊下の端を進んで近衛兵の前に立つ。
彼女一人で大丈夫なのかな。
「では、行きます」
そう言ってウォルターが剣を構える。
「ああ」
重松さんが答えたと同時に斬りかかってきた。
上段からの一閃を同田貫を横にして防ぐ。薄暗い廊下に火花が散った。
重松さんが押しのけると、クルリと回って足をなぎ払おうと剣が襲う。それを跳んで避けると同時にウォルターの頭に刀を振り下ろした。
しかし、そこには姿はなく刀は床を叩く。だが、それはフェイントで、刀の側面を床にたたきつけた反動でウォルターの下半身を切り裂こうとした。
後で聞いたことだが、それは重松さんが考えたツバメ返しの変則技。その剣技は佐々木小次郎の雅な技と伝えられているが、実際には振り下ろした刀を返して敵の下半身を襲うという力業だ。別称を虎切りという。
ウォルターは左足を軸にし、素早く体を回転させて剣を避けた。
体勢を整えるのを待たずに剣がきらめいて太い図体を貫こうと飛び出してくるが、重松の服をかすめさせただけ。
まるで日本舞踊を見ているようだった。二人とも剣を持っていなければ、優雅で俊敏な踊りを舞っていると思っただろう。素人が見ても、それだけムダがない。
重松さんは勝てないと言っていたが、二人は互角なんじゃないか。
一方の祐子さんは圧倒的だった。
三節棍を有効に使い、剣をかいくぐって敵に打撃を与える。一度に五人を相手にしているのだが、上手く立ち回って一人ずつに対していた。
三節棍を剣に巻き付けるようにして相手の頭を打ち、敵の攻撃を避けて足を払う。遠い敵は三節棍を一本に固定して突き倒した。
おとなしい日本女性のような感じなのに、戦いにおいては鬼の様に強い。瞬く間に三人を床に転がした。




