第71話、特殊仕様の武器
「お前の酒は抜けたか?」
野田に確認する。
「ああ、大丈夫だ。すっかりシラフになったぜ」
よし、すぐに転送することにしよう。ウォルターさんが優秀だとしても、そんなに早く宝物庫に気が向くとは思えない。重松さんは考えすぎじゃないのかな。
「じゃあ、野田。さっさと行ってパッパとお宝を持ってくるとするか」
「ああ、落ちている札束を拾うくらいに簡単な仕事だぜ」
野田もやる気満々のようだ。
「まあ、待てや」
重松さんが立ち上がった。俺達を止めるつもりなのか。
「俺も行くよ。あんた達じゃ、ちょっと頼りないからな」
そう言って笑うヒゲ面の元自衛隊員。
「佐藤さん。十分だけ待ってくれ、支度するから」
重松さんは親指でクイッと合図すると祐子さんが立ち上がって、外に出ていく重松さんに続く。まあ、彼が同行してくれれば心強い。
しばらく待っていると、重松さん達が戻ってきた。
彼らは黒いベストを着ている。外のジープから持ってきたのか。
「ああ、これは防刃ベストだ。特殊仕様で、大抵の刃物は防ぐことができるのさ」
説明する重松さんの手には、やけに幅広の日本刀が握られている。祐子さんの手には三本の棒がセットになったもの。
「その武器は何ですか」
野田が聞いた。
「俺の日本刀は同田貫だ。ウォルターさんの剣に対抗するには、これくらいの武器がないとな」
はあ、といってうなずく俺と野田。
「祐子のは三節棍。それは扱いが難しいので、使えるのは妹しかいない」
彼女は、三本をシャキーンと一本の棒に変化させた。映画で見たことがある武器。実際に目にしたのは初めてだが。
「どちらも特殊セラミックで作られている。けっこう高かったんだぜ」
刃先を確認してニヤリと笑う顔は頼もしくて関羽のよう。その顔はアニメでしか見たことはないが。
でも、この平和な日本で、そんな物が手に入るのか。日本は資本主義だから、お金さえ払えば何でも手に入るのかな。
「だったら、拳銃とかじゃダメなんですか」
俺ならピストルやショットガンを用意するだろう。
「狭い場所での近接戦闘は刃物の方が有利なのさ。少なくとも俺達にとってはな……。それに銃器は手に入れるのに時間が必要なんだよ」
重松さんに不安感は見受けられない。自信がありそうな感じ。
「ウォルターさんに勝てますか?」
俺が核心を突くと重松さんは首を振った。
「まあ、無理だな。少なくとも相手を殺す気でかからないと確実に殺されるだろう」
表情に焦りはない。彼は自分の生死を客観的に捉えているのだろう。
やはり、ウォルターさんは強いのか。
「さあ、佐藤さん。さっさと行こう。なるべく早く転送した方がいい」
複雑な気分で準備をする。
俺達四人は庭に出て円陣を組んだ。
榎本さんは心配そうに見送ってくれるが、香奈恵はニコニコ笑っている。たくさんの財宝を手に入れて帰ってくる姿を想像しているのだろう。相変わらず気楽だよな。
アズベルは不安そうに香奈恵の後ろに控えていた。
「では、行きますよ」
宝物庫の中を思い浮かべる。たくさんの金貨や宝石。一つの木箱いっぱいに入れるだけで大金持ちになれる。
榎本さんの金色マントがゆがみ、庭は暗闇に包まれた。




