第68話、狡兎狩り尽くして
「なあ、嬢ちゃん。詳しく聞かせてくれないか」
重松さんがアズベルの肩に置いていた手に力を込める。
「分かりましたぁ、分かりましたですよ」
彼女は事の経緯を話し出した。
アズベルは動揺していて、その説明は要領の得ないものだったが、おおよその内容は理解できた。
「何でだよ! 俺達は王国のために怖い目に遭いながらも戦ってきたんだぜ」
キャサリン姫の仕打ちに納得できない。俺は無性に腹が立った。あんなに優しそうな美人なのに、そんな腹黒い女だったのかよ。
「狡兎狩り尽くして走狗煮らる。飛鳥射尽くして良弓蔵さる。用がなくなったらポイって捨てられるのは良くあることさ……」
重松さんが伸びたあごひげをクイッと引っ張って言った。
「汚いよなあ……」
思わずつぶやく。俺達が甘ちゃんだったということか。これが国の政治というものかよ。
「まあ、とにかくだ!」
重松さんが大声を発する。俺達の気持ちを切り替えるためか。
「今はグダグダ考えていても仕方がない。手遅れになる前に行動だ」
うなずく俺。まずは自分の命の確保が優先。
「あの、あの、私もニホンとやらに連れて行って欲しいですう。告げ口したのがバレたら牢屋にぶち込まれるかも……」
ブラウンのドレスを着たアズベルは、大きな胸の前に手を組んでお願いのポーズ。
「ああ、いいとも。嬢ちゃんは命の恩人だからな。一緒に行こう」
丸顔の重松さんがニコリと笑った。
俺達三人は執務室を出て戦勝会の広間に向かう。俺の酔いは完全に冷めている。
広間のドアを開けて野田を探す。
まだ騒がしい会場。野田と金色マントの榎本さんは可愛いメイドさんと親しそうに話していた。
「おい、野田ぁ」
俺は酔っている振りをして彼の首に手を回す。俺達が姫の企みに気づいたことを他人に知られてはならない。
「メイドさんなんかと仲良くしていないで、男同士でイチャイチャしようぜえ」
そう言って無理やり席を立たせる。
「何すんだよ、佐藤」
若い女の子から引き離されて迷惑そう。
「いいから、いいから。執務室で飲み直そう、なっ」
力任せにドアの方に引っ張っていく。酔っている野田はフラついていたので、肩を貸す振りをして強引に連れて行った。
榎本さんも重松さんから抱きかかえられるようにして、持ち運ばれる。
「いやー、軍師殿は可愛いなあ。チュッチュしちゃおうかなあ」
そんなことを言っている重松さんを周りの人間は冷たい目で見送っていた。
広間を出て、しばらく廊下を歩くと人気がなくなった。
「緊急事態だ。今はヤバイ状況になっているから、すぐに転送するぞ」
重松さんの言葉をボンヤリと聞いている野田と榎本さん。
「香奈恵と祐子さんはどこに行ったんだ?」
俺が聞いても野田の目はうつろ。
「確か風呂に行くと言ってましたよ」
答えた榎本さんは、そんなに酔っていない感じ。
アズベルに場所を聞き、訳が分からないという風の榎本さんと野田を引っ張って俺達は女風呂に急行した。




