第64話、退却
部隊は敵の退却路である、細い道に到着した。
榎本さんがドローンで偵察すると、カスター将軍を攻撃していた敵軍は戦闘を放棄して退却していた。防衛陣の四千と合流し、こちらに向かってくるよう。
カスター将軍は命拾いをしたな。
「道の端の茂みで待ち伏せしましょう」
榎本さんがウォルターさんに指示をする。
俺達は茂みに入り、枝を切って柵を作った。簡略な砦の完成。
「敵は退却していくのだから、こちらも城に帰ったらどうですか」
俺が言うと、榎本軍師はニンマリと嫌な笑い。
「カスター将軍の軍に損害を与えた分はキッチリと返してあげましょうよ」
ああ、榎本さんは結構、恨みを忘れないタイプなのか。
「大丈夫ですよ、佐藤さん。敵は逃げの一手、こちらに構っている余裕はないはず。敵の側面に弓矢で攻撃して、今までの仕返しをしてあげましょう」
ホント、余裕だな。このモンモンさんは。頼りがいのある中学生のほっぺにチュッチュしたくなるぜ。
しばらく待っていると、低い振動が響いてきた。敵がやってきたのだ。
こちらは弓に矢をつがえて敵を待つ。
やがて、敵の先頭部隊がやってきた。帝国軍は俺達の軍に気づかないで目の前を通り過ぎていく。
「放て!」
榎本軍師の号令一下、一斉に弓矢が飛んだ。
まるで雨のように矢が帝国軍に降りかかる。兵は動揺して叫び、馬は鳴いて暴れまくる。阿鼻叫喚の混乱だったが、敵の隊長らしき者が馬に乗って必死に味方を叱咤する。
すぐに混乱は収まり、山に向かって急いで退却していった。
「さすがですね」
榎本軍師は感心しているよう。
「普通だったら思考停止して、こちらを攻撃してくるでしょうが、攻撃を受けながらも整然と撤退していく……。敵の司令官は一流だな」
金色マントの軍師は腕組みをして薄笑いを浮かべている。
木の盾を横に構えながら帝国の歩兵が走り去っていく。こちらの矢が尽きる頃には、全軍が去っていた。
目の前には数百の死体。
「これで戦いは終わりました。城に帰ることにしましょう」
榎本さんが言うと、ウォルターさんが馬に乗ったまま剣を抜いて高々と掲げた。
「我々は帝国軍を退けた。トルディア王国バンザイ!」
それに応えて五千人の歓声が枝葉を揺らす。
「俺達の勝利だ。榎本軍師バンザイ!」
兵達は同じく、大声で天才軍師を褒め称える。
榎本さんは顔を真っ赤にして照れていた。今まで、そんなに持ち上げられたことがないんだな。
ウォルターさんの勝ちどきが数回繰り返された後に、俺達は悠然と城に向かって行進した。
やっと戦争が終わったのか。
オフロード車の後部座席。俺は約束の報酬に胸を高鳴らせていた。たくさんの財宝、それに嫁さんも……?




