第62話、もつれた糸
カスター将軍の部隊を半包囲する帝国軍は約六千。他の四千は林に陣取って俺達の部隊を阻もうとしている。他の帝国軍は撤退していったのだろう。周りに他の敵の姿は見えない。
さすがにカスター将軍は長年、城の防御を任されてきただけあって、一時の混乱をすぐに収拾して密集隊形に陣形を整えた。防御陣を作って、ゆっくりと後退していく。
「軍師殿!」
馬に乗ったウォルターさんがヒラリとハイラックスの荷台に飛び乗った。
「早く将軍を助けに行きましょう。なんなら騎馬隊だけでも先行しますが」
しかし、榎本さんは首を横に振る。
「将軍の戦闘に直接的に参加することはしません。敵は一万、こちらは八千です。まともに戦っても勝ち目はないのですよ」
「将軍を見捨てるというのですか。でも、それでは……」
ウォルターさんは口を結ぶ。
「敵は将軍を倍の兵で攻撃し、我々を四千で足止めするつもりです。将軍の部隊が壊滅したら、その六千は私達の後方に回り込んで足止め部隊と一緒に挟撃するでしょう」
榎本さんの説明にウォルターさんは何も言えない。
「大丈夫ですよ、最終的に将軍は救助します。もつれた電源コードを無理に引っ張ってもこんがらかるだけです。ゆっくりと重要なポイントをほどいていくことが肝要なのですよ」
榎本さんは余裕の笑顔を作った。
「電源コード?」
「あ、いや……、とにかく陣形を変えましょう」
榎本さんはウォルターさんに変更する内容を説明する。
ウォルターさんの馬は手綱を持っていなくても、車と併走していた。普段から良く訓練されているんだな。
榎本軍は五百の騎馬隊を別働隊として、四千五百の歩兵を直線的に並ばせた。歩兵隊の前後にはプレートアーマーを身に付けた重歩兵を配置。
そのまま敵の迎撃部隊が待ち構えている林に向かう。
「これからどうするんですか」
俺は金色マントを身にまとった榎本さんに訊ねた。
「このまま進軍して林の手前に行ったら方向転換します。敵の目前を通り過ぎて後方の道を塞ぐように見せかけるのですよ」
戦いの中にあって榎本さんの表情は冷静。この人は軍師になるために生まれてきたのか。
才能ある人間には活躍する場というものが必要。榎本さんが異世界を知らずに日本で生活していたならば、うだつの上がらない無職の軍事オタクで生涯を終えていただろう。特技に持っている人間には、それなりの世界が与えられなければならない。
「つまり、敵の退却路を絶つことにより、帝国軍を動揺させてカスター将軍を攻撃している部隊を俺達の方に引きつけるということ……」
俺が確認した。
「そうです」
軍師はうなずく。
だけど、その作戦は突っ込みどころ満載のような。




