第59話、補給
ゆっくり寝てから、夜になるのを待って異世界に転送した。
かがり火に照らされたトルティア城。その庭先に俺達四人は現れた。
「あー、久しぶりだわー」
香奈恵は周りを見回している。
城内は落ち着いているようだ。荒れていないので、敵が侵入していないことは明白。
ウォルターさんは金色マントを軍師殿に返してくると言って城の中に入る。俺達も榎本さんの部屋に向かった。
「ああ、佐藤さん。ありがとうございました」
軍師の執務室。机に座っていた榎本さんが寄ってきて俺の手を握る。
「佐藤さん達の活躍で敵は逃げていったよ」
重松さんが笑いながら言った。
「私達の奇襲攻撃の後、すぐに撤退していったんですか?」
そう言って金色マントを軍師殿に返却するウォルターさん。
「ええ、慌てて逃げていきました。まるで重大事件が起こったかのように……」
そうですか、と言って黙り込む剣士。司令官と思われる首を持ってこれなかったことを残念に思っているのか。
「翌朝に作戦会議を行いますので、佐藤さん達も出席して下さい」
榎本さんが依頼するので、俺と野田はうなずいた。
城の会議室。高い位置にある窓から朝日が差し込む。
カスター将軍が長いテーブルの奥に座り、俺達を見下すような視線。
将軍の横には彼の部下が数人いた。
対面には榎本さんが座り、将軍と視線を衝突させている。本当に仲が悪いのか。
「まだ、共和国は動いていないようですな」
むすっとした声で将軍。
「大軍を動かすのだから時間が必要なのですよ」
榎本さんが返答する。
「本当に共和国を説得したのですかな。こんなに遅いと同盟を反故にされたと考えたくなる」
将軍は俺達を信用していない。
「アマンダ共和国は同盟文書にサインしています。それは国王も確信している。同盟に関して疑いの余地はありません」
ウォルターさんが強く言い切った。
「気が変わったのかもしれない」
将軍の横にいる太った副官が言った。こいつも俺達に疑念を持っているよう。
「まあ、今になっては同盟の約束を信じるしかないでしょう。やることは全てやった。後はグダグダ言わずに結果を待つだけだ」
重松さんがビシッと言った。髭が伸びて、ますます関羽状態になっている。
「もう、食料が残り少ないのだぞ。今まで戦闘員に対しては日に三食を供給していたが、明日からは二食にしなければならない」
将軍は腕組みをして険しい表情。
そんなに困っていたのか。そう言えば、いつも会議の席には果物やお菓子などが贅沢に並んでいたが、今は各自に紅茶のカップしか置いていない。
「うん、弾薬も底をついている。これからは弓矢などのスタンダードな武器で対応するしかないな」
そう言って口を結ぶ重松さん。
ああ、そうか……もう、ショットガンなどは使うことができないのか。弾薬などは重松さんの非正規ルートで買ってくるので、すぐには用意できないのだ。
俺が日本から食料などを持ってくるという方法もあるが、一日に一回しか転送できないし重量に制限があるので、それは焼け石に水というもの。
会議室に重い空気が漂う。ひもじいなあ、補給できないということは。
突然、ドアをノックする音が部屋に響く。
「大変です、将軍!」
こちらの了承を待たずに兵が飛び込んできた。
「帝国軍が撤退するようです」
会議に参加していた皆は顔を上げた。




