第57話、奇襲
転送すると、目の前には帝国の黒い軍服を着た軍人がたくさん。
彼らは偉そうな感じなので、士官なのだろう。皆は目を丸くして立ちすくんでいた。
狙い通り、俺達は敵の本営に現れたようだな。
向こうにはトルディア王国の城塞都市がボンヤリと浮かび、戦闘の音が遠く聞こえてくる。俺達の近くにはテントがあり、かがり火に薄く照らされていた。
ウォルターさんは脱兎のごとくテントに駆け寄って剣で切り裂いた。中にはドッカリとイスに座った軍人。あれが司令官なのだろうか。たちまち起こる剣劇。ウォルターさんは金色マントをひるがえして近衛兵と思われる剣士達と戦っている。
重松さんといいウォルターさんといい、良くできた兵士というものは戦場において戸惑うということがない。平時から戦闘のことを考えているのだろうか。
「野田ぁ! 撃て!」
覚悟ができていない自分を叱咤するように大声を出す。
直後に起こる銃声。俺達は背中合わせになってショットガンを撃ちまくる。ウォルターさんを撃たないことだけを条件として、散弾を振りまいてやった。
何が起こったか分からないうちに倒れていく敵兵。よく考えると、転送能力とは怖い能力だったんだな。
引き金を引いても弾が出ない。俺は空になったマガジンを抜いて充填されたマガジンを腰から抜いて入れる。
本営は騒然となり、周りの兵が集まってきた。剣を抜いて俺の方に迫ってくるが、散弾を一発でも食らわせてやれば数人がひっくり返った。
人を殺すのにも慣れてきたのかな……。
撃ちまくったので残りのマガジンが一つしかない。
「野田! そろそろだ!」
「ああ、そうだな! でも、ウォルターさんが」
テントの方を見ると、まだ争っているよう。
「ウォルターさあーん。もう限界ですよー!」
喧噪の中、俺の怒鳴り声が聞こえたのか分からないが、とにかく彼はテントから飛び出してきた。
俺達三人は体を寄せ合う。ウォルターさんのマントは返り血で汚れ、剣も血まみれ状態。
「転送しまーす!」
さっきまでいた庭を思い浮かべる。敵は突発的な状況に思考が対応し始めたようで、剣を構えて俺達を包囲していた。
かがり火に照らされた風景がゆがむ。俺達は日本に転送した。
*
見慣れた庭。無事に転送してきた。
「終わったぁ」
俺と野田は地面にへたり込む。緊張が一気にほぐれたようだ。
ウォルターさんは剣を振って地面に血を飛ばす。
「司令官らしき者を殺したのですが、確認できませんでした。首を持ってくれば分かったのですが……」
残念そうに言う剣士。
「はあ、そうですか……」
持ってくんなよ、そんなモノ! トラウマになるだろうが。




