第53話、打撃軍団
「何のために敵の侵入を許すというのか!」
将軍が榎本さんに向かって怒鳴りつける。
榎本さんは小さなため息をついた。
「いいですか、将軍。敵の味方との戦力差がありすぎるんです。今は催涙弾で退却させたとしても、その催涙弾は残り少ない。次回も同じように猛攻されたら城壁は突破されてしまいます」
将軍の迫力にも負けない榎本さん。
「今、一時的に優勢になっています。今こそ打撃を与えなければならないんですよ」
腕組みをする将軍。理屈では分かっているようだ。
「このまま普通に戦っていてもジリ貧になるだけです」
その通りだ、と言って大きくうなずく重松さん。
将軍は黙り込んで何も言わない。
戦いの喧噪の中、不思議な空気になった。
「門を開いて、敵を入れますけど、よろしいですね」
榎本さんが念を押す。
「門の内側には柵が作ってあって、敵が侵入してきても容易に突破することができないようになっている。攻めにくく守りやすい工夫をしているから大丈夫だ」
重松さんが言い切る。
「ジリ貧を恐れてドカ貧にならねば良いがな……」
捨て台詞を残して将軍は下に降りていった。
榎本軍師の命令が飛び、西門が開かれた。
催涙弾によって顔面をクシャクシャになった敵兵。それでも門の中に突撃してきた。
中は木の柵で区切られていて、細い通路になっている。そこに入り込んだ敵兵は、柵の外から槍で突き殺された。
それでも味方の死体を乗り越えて進んでくる帝国の兵隊。いったい、どのような教練をすれば、そのように勇敢になるのか。
ほとんどの兵は槍で始末されたが、柵を乗り越えた兵もいる。それは白兵戦用の剣士達によって斬り殺された。剣士の中には近衛兵も混じっている。それだけ王国軍は人が少ないのだ。
遠くから馬のいななきが聞こえてきた。
双眼鏡で見ると、鎧で防御された馬に乗っているプレートアーマーの騎士達。帝国軍の打撃軍団が動いたのだ。船で例えると、高速戦艦といったところか。
銀色の騎士軍団は開いている門に向かって突撃してきた。一気に門を突破するつもりだな。
「祐子!」
重松さんの怒声を受けて彼女がランチャーを騎馬隊に向ける。
その引き金を引くと銃声が響き、榴弾は騎馬隊の鼻っ面に飛んで、俺の所まで響くような爆音と太陽のような閃光が走った。
あれが閃光弾という物か。
馬は驚いて騎手を投げ出す。さらに暴れまくって近くの兵を踏み倒した。騎馬軍団の先鋒は壊滅状態。
さらに祐子さんは閃光弾を撃ち込み、その混乱している場所に俺と野田は散弾を撃ちまくる。
しばらくして、撤退を指示する太鼓の音が帝国軍の本陣から聞こえてきた。
どうやら西門は死守することができたようだ。




