第5話、勇者召喚
「では、神官アズベルよ。勇者を異世界から呼び出してくれ」
「ははーっ」
アズベルは深くお辞儀をした。
(ああー、もうダメですう。召喚魔法を使えないことが知れたら吊るし首になるかしら)
古い木の杖を握る手が震える。でも、やるしかない。
(まったく、誰だか知らないけど先祖のドグサレヤローがぁ。そいつのせいで窮地に立たされているですう)
息を整えて杖を高く掲げる。玉座の三人と、壁際に控えている衛兵達がイザベルに視線を集中する。時間が静止したように広間の音が消えた。
(とにかく、魔法を使っているように見せなければ)
「この世に知ろしめす精霊よ、神官である私の願いに耳を傾けたまえ」
それっぽく杖をぐるんと回す。
「悪逆なる侵略者を退け、栄光あるトルディア王国に安寧をもたらすよう、救い主を授けられんように」
杖で床を叩く音が静かな広間に響く。
「代償として我が純潔を捧げまする……。いざ、救国の勇者よ現世に顕現いたしたまえ」
杖を高く掲げる。
しかし、何も起きるはずがない。
沈黙の中、衆目を集めているアズベルは冷や汗を流す。
「神官よ、どうしたのだ?」
しばらくして、しびれを切らした王様が声を掛けてきた。
(何とかして逃げちゃおう)
「はい、勇者様はプライドが高いらしく、素直に来ていただけません。しかし、この世界には召喚しておりますので、城の近くに居ると思います」
とっさの言い訳に、うなずく王様。
「では、私が城から出て勇者様を探しにいきますですう」
アズベルは広間から逃げようとした。
「いや、待てい。そなたが行く必要は無い。兵に命じて探しに行かせよう」
出口に向かう途中で足を止められた。
(まったく、この金髪おかっぱ頭があ。余計なことを)
「いえ王様、勇者様を見分けることができるのは私だけ。直接、お出迎えするですう」
ダラダラと顔を流れる冷や汗。フードをかぶって隠す。
「ならば、私も一緒に行きましょう」
美青年のウォルターが進み出る。
(このリア充があ! 断る理由が見つからないですう)
「では、剣士殿。よろしくお願いいたします」
そう言ってアズベルはウォルターを引き連れ、謁見の間を出た。
(それっぽい格好をした人を見つけて、無理やりにでも城に引っ張ってこなければ……)
アズベルはウォルターと一緒に、用意されてあった馬車に乗り込んだ。




